笑顔の連鎖 (再掲載作品)



夏休みに入ってすぐ事件は起きた
いずれこんなこともあるだろうとは思ってはいたが…あまりに早過ぎるだろ


「美希也?干からびたいなら止めないけど、そろそろ戻って来ないと今後余計に辛いよ?」
うちに来てからもう一週間が過ぎようとしているが、ココに来てからずっと床かベッドでぼーっとしている
「ほら、天気もいいし出掛けようぜ」
そう声を掛けてもフルフルと首を横に振り拒否する
見ている分にはかわいいが一週間も続くとそうも言っていられない
「みーきーやー」
床に座っている美希也の背中にのしかかる
「嫌」
ようやく一言返ってくる
心ここに在らず
そんな感じで何を考えているのかも分からない
ただ、美希也は聡広と別れたこと、楓が絡んでいるから尚更自宅に帰りたくないことは分かった


美希也が聡広と別れたらこうなるだろうという予測はあった
その時、自分は傍に居られるかとか酷い方向に考えてやけを起こすんじゃないか
とか心配だったが、美希也はまっすぐ俺のところに来た。
最初は驚いたけれどやっぱり安心した。
何しでかすか分からないこいつが目の届く範囲にいてくれるのだから


しかし…だ。
「外に行くのが嫌なら何がしたい?これから、どうしたい?」
何も望んでいないという出会った頃と同じ絶望的な瞳が気に入らない
いや、出会った頃の方がマシだった。
まだ「楽しければいい」という欲求があったから。
今は…それすらない。


「俺…なんのために生きているのかな?」


ここに来て初めて美希也から問い掛けられた
「何のためって、生きるのに理由は必要?」
「神様は人にそれぞれ成し遂げる課題を与えているんだって」
「神様ねぇ…?美希也は神様信じていたっけ?」
確か宗教には入っていなかったはずだ
「信じてないよ。でも、この先何か意味のある人生になるのかな?って思ってさ…」
「そりゃあ…意味はあるよ。美希也の存在によって誰か影響を受ける人は必ずいる。相手にとって良いか悪いかは分からないけどさ」
「影響…か」
ぼんやりとした様子は変わらなかったが若干疲れた声音に変わった
この一週間を考えると凄い進歩ではある
あと、少しだろう
「なぁ、美希也は俺と出会ったことを後悔してるか?」
そう問い掛けると首を横に振り
「むしろ、圭介との出会いに感謝している。俺は圭介に救って貰ってるから」
淡々と返される
「そんなマジで返されると照れるだろ」
少し茶化して
「俺も美希也に救われてる。もし、美希也と出会っていなかったらきっと未だにつまらないことしていただろうし、今となっては美希也と一緒にいる楽しい時間を知ってしまったからそれ以上の楽しみがない」
「なにそれ」
「要するに、それだけ俺が美希也に依存してるってこと」
ギュッと抱きしめる
この一週間で随分とやつれてしまっている
ほっとくと食べない美希也に無理やり食べさせてはいるが、それでも量が少ない
「いつまで、そうしてるんだよ。美希也」
「…圭介…いたい」
シリアスも何もない
このムードブレーカーめ!
「悪かったよ」
腕を離す。
全く、これだと今日は無理だな
と、諦めた時、引いた手を美希也が握る
ぐいっと俺の腕を自分の肩に掛けて美希也が俺に寄り掛かる
「心配掛けてごめんね」
「遅いよ」
全く随分と長い間さ迷っていたがようやく気持ちが上向いたようだ


「圭介、俺さ…聡広と別れた」


知ってる
そんなの見てれば分かる


「曖昧なのが嫌で自分から別れを切り出したはずなのにね…フッたのかフラれたのかよくわかんない」
「…どうせ誰が好きか追求して楓とか言われたんだろ?」
そう言うと驚いた顔をしている
「図星か。フラれたってことでいいんじゃねぇ?大体、高林先生が悪いよな」
「な…なんでわかったの?」
「…勘」
見てれば分かるなんて言っても仕方ないだろう。
「なんか望んでも手に入らないことばっかりで嫌になって…圭介なら助けてくれるって甘えてた。実際、助けてくれたけどさ」
上目遣いで見上げる美希也に軽くため息をついて
「当然だな」
と言ってやった。
いつでも頼れ。いつでも受け入れてやるから
「ありがとう」
美希也がくるりと体の向きを変えて抱きついてきた
だから、しっかりと抱きしめる
いつだって抱きしめてやるから
だから、俺を頼れ


「俺、ちゃんと恵まれてた。圭介と出会えたんだもん」
「そうだな。俺もだけど、マスターやタキだって美希也のことを心配してるよ」
ちゃんとお前自身を見ているやつは多くいるんだと声を大きくして言ってやる
「みんなにも会いに行かないとね…でも、その前に、圭介と楽しい夏休みを過ごしたいな」
少しはにかむ美希也からは少し前の様子は全く想像がつかない
「残りの休みは嫌になるくらい楽しませてやるよ」
寂しい思いや辛い思い出にならないように。


この夏はまだ始まったばかりだ


(執筆 2009.6.28)





時系列としては、1章終了後のすぐ後になります。
1章が全部終わってから書いたのか、ラストを書いた時点で書いたのか・・・
どっちだったかは忘れてしまいました。

(掲載 2009.11.21)


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