顔と顔を付き合わせればいつも喧嘩ばかり俺達はしていた

一体いつから喧嘩ばかりするようになったのだろう?

思い返しても思い出せなかった



-Labyrinth in heart-



「千紘?どこ行くんだよ」

教室から出ると自分を追いかけるように那智が教室から出てきた

「ちょっと休憩」

そう言って上を指す。

「待てよ、俺も行く」

誰かと話していたのだろう。彼らに声を掛けて自分のもとに駆けてくる

このようなことが日常になったのはかなり昔だったような気がする

「次の授業はサボリ?」

そう聞いてくる那智に頷いて屋上の扉を開ける

「じゃあ、俺もサボろうかな」

「どうせ最初からそのつもりだったんだろ?」

ちらりと視線を向けて問う

するとイタズラがバレた子供のような仕草をしながら

「当然でしょう?」

と返してくる

そんな那智を見ながらコイツは昔から変わらないな・・・と思った



俺とコイツ・・・那智はいわゆる幼馴染と言うやつだ。

いや、高校までずっと一緒と来ると腐れ縁と言うのかもしれない。

家が隣なのだが、中学の頃まで実は俺はコイツの事を凄く嫌っていたんだ。

それが・・・今では一番お互いを理解しあっている一番の存在になっている

不思議な事もあるものだと今更ながらそう思う



別に何かをするでもなくぼんやり空を見上げる

最近気付いたがコイツはこうしてぼんやりするのが好きみたいだ

雨の日でも俺は屋上で授業の時間をつぶす。しかし、那智は雨の日は必ずちゃんと教室に居る。どうやら雨は嫌いらしいと言う事が分かった。

時にはタバコを吸っていたりもするが、コイツはそう言うことはしない。

自分ひとりで吸っているのも悪い気がしたのでタバコを勧めた事があった

その時散々怒られたのでそれ以来、コイツの前ではタバコは吸っていないし勧めない

意外な所で頑固なのだ。



「本当に今日は天気が良いよね〜!お昼寝したくなる」

ん〜っと伸びをしながらそう言ってすぐにパタンと寝転がる那智に

「そういいながら寝てるじゃねぇか」

と、揶揄すると

「いいじゃない。こんなに天気がいいんだから・・・」

そう言って目を閉じてしまう

結局自分は残されてしまうのだ。

コイツはいつも自分の世界を作る

俺の入る隙などないような・・・魅力的な世界を

昔からいつもコイツが羨ましかった。自分にも同じ数だけ友達は居たが、那智と一緒に居るやつらが・・・羨ましかった。

自分は、素直に那智と接することなんてできなかったから

一番近くに居たのに全く通じ合えなかったのだ

だから、顔を合わせる度に喧嘩になった

中学に入った頃にはお互い冷戦状態だったが何かをキッカケに俺らはお互い遠回りしていたことに気付いたのだ

その事を思い出すだけで苦笑が漏れる



千紘とまともに話すようになった日もこんな風に天気の良い日だった

俺たちは同じ事で悩み、無いものねだりをして馬鹿馬鹿しくも喧嘩していたのだ

こんなに近くにいたのに。

お互い理解しようなんて努力をしなかった。

それほど余裕がなかったのだ。

その結果、中学に上がる前にはお互い顔を合わせてもシカトをし続けた



けど、中2の秋のある日、部活の帰り道で偶然前方を千紘が歩いていた

俺は友達と一緒に帰っていたのだが相手は一人。

彼の背中を見てなんだかいつも強そうに見えた千紘の背中がその日はなんだか弱々しく見えたのだ

だが、友達にはそんな風に見えなかったらしい。

「那智、前を歩いてるのって・・・もしかしなくても浜沢か?」

「ん?そうだけど」

「マジかよ?!ちょ、ちょっと速度緩めようぜ・・・」

「何でだよ?」

別にこの距離で追いつくわけでも無いし、もし追いついたとしても関係はないはずだ

「だって、あの浜沢だぜ?噂、知ってるだろ?お前だって」

そりゃ・・・あまり良くない噂は多少耳に入ってるけど、だからってそこまで警戒するような話ではないだろう

「噂は噂だって。本当かどうかも分からないだろ?」

そう言うが相手は速度を落としゆっくりと歩き始める

コチラの会話が聞こえたのか千紘も足早に遠ざかっていく

「あ・・・もしかして聞こえちゃったとか?どうしよう・・・」

青褪める友達を見ながらため息をつく

「もうどうしようもないじゃん。謝りに行く?」

そう尋ねると勢い良く首を横に振る

そんな彼を見ながら、気が重くなる

俺にどうして欲しいのか全くわからない。



結局そのまま友達とは別れてマンションの中へと入る

すると、丁度エレベータを待つ千紘と鉢合わせてしまった

空気が重い

階段で上がろうかとも考えたが部活帰りでただでさえ体が重いのに更に階段なんかを上がる気力は無かった



「あのさ、さっきの・・・聞こえてただろ」

返事は無い

別にそれでもいいから言っておきたいことがあった

「一緒に居た奴が気にしてたから・・・聞こえてたならゴメン」

それだけ言ってまた黙る

ようやくエレベータが上から下りてきた

千紘がそれに乗る。しかし、俺はそれに乗る気は無かった

「乗れよ」

短く一言そう言ってくる

「いや、いいよ。次を待つ」

これ以上重い空気に耐えたくはなかった

エレベータを待つと言っても長くて3分程だ

待てない時間じゃない

しかし、千紘が苛立ったように舌打ちをして俺の腕を引いてエレベータの中に入れると扉を閉めてしまった

「何すんだよ」

思わずつかみ掛ると呆れたようにため息をつかれた

「な、何だよ・・・」

「お前も知ってるだろ?うちのマンションのホールはそれほど安全じゃないって」

そう言えばうちのマンションの1階は何かと問題が起こっている

「それが、何か関係あるのかよ」

「お前一人ホールに残してその間に刺されたとか事件が起こったら困るってだけだ」

後味悪いだろ?俺が

と、続くだろう言葉を彼は言わなかったがしっかりと聞こえた気がした

「あぁ・・・そう。つかみ掛かって悪かった」

パッと手を離して背を壁につける

あと数階上がれば自分達の部屋につく

この数階の時間がいつもよりも長く感じた。



あと1階・・・と、言うところでエレベータが突然止まった

「な、何が起こったんだ?!」

とりあえず非常ベルを押して助けを求める

「恐らく隣のエレベータで何かあったか誤作動だろうな。落ちなければ問題は無い」

淡々とそう言う千紘に

「何でそんなに落ち着いていられるんだよ!!」

と、怒鳴る。

怒りやすいのが自分の短所だと自覚はあるが、こんな非常時に冷静で居られることは信じられなかった。

「今俺たちには何もする事はできないだろ?だったらむやみに騒ぐよりも大人しくしておいた方がいいに決まっている」

「それは・・・そうかもしれないけど」

誰かが助けてくれるとは限らないと思う

ふとそこで携帯電話の存在を思い出した

「こう言う場合って、電話するなら警察かな?それとも救急?」

「どっちだろうな・・・とりあえず、非常ベルを押した時点で警察には連絡が行ってるだろうな」

「あ、そうか・・・」

ずるずると壁にそってそのまましゃがみこんだ

本当に自分にできることは無かったのかもしれないと感じたのだ

ただ、待つだけ。一刻も早く千紘とは離れたかったのに、離れる事ができない事が苦痛に感じてくる。



「那智」

名を呼ばれて相手を見上げる

そう言えば久々に名前を呼ばれた気がした。もう忘れてるかと思ったのに

「何?」

「無理にエレベータに乗せて・・・ゴメンな」

こうなった事に対して多少罪悪を感じているのだろうか?

「別に俺は気にしてないからいいよ」

スッと視線を落としてそう返す

お互い会えば喧嘩ばかりで素直に謝るなんて事はしたことがなかったのでかなり珍しかった

その喧嘩の内容も今考えればくだらない話ばかりだ

「・・・久々だよね。喧嘩じゃなくてまともに話すなんて」

そう言って千紘を見上げる

「そうだな」

短い言葉で会話が終わってしまう。

どうせ話題が無いし、無理に話をする必要などもないからいいけどさ・・・

しかし、少し寂しく感じる

あとどのくらいしたら助けが来るのだろう?

まだ電気が通っているだけマシだと思う。これで完全に暗闇だったら恐怖に耐えられなかっただろう。

あと、自分以外の人が居ることも恐怖を和らげていると思う

どんなに嫌いなやつでも居るのと居ないのとでは安心度がやっぱり違う

自分一人だとやっぱりパニックを起こしてむやみやたらに騒いでいたと思う

エレベータ内に付けられている大きな鏡を見ながらぼんやりとしているといつの間にかうとうとと眠ってしまっていた



「那智?」

声を掛けても返事はない。

完全に眠ってしまったのだろう

「昼寝ってガキじゃねぇんだから・・・」

そういいながらも風邪を引くと困るだろうと自分の上着を掛けてやる

那智の寝顔を見て中2の時のエレベータの中での事を思い出した

「本当にお前は昔から変わらないよな・・・」

そっと那智の唇に口付ける

あの時・・・エレベータの中でした時と同じように



長い沈黙の後聞こえてきた寝息に俺は眉を顰めた

こんな状況で眠れるコイツが理解できなかった

「那智?」

声を掛けても返事がない

器用に座って眠る那智にまだ残暑を残すこの時期に冷房が入っているこのエレベータの中で眠るには少し肌寒いだろうと思い自分の着ていた冬用の上着を掛けてやる

教室内での冷房対策に持っていっていたものをこんな所で活用するとは思ってもみなかったが、たまには役に立たなければ持ち歩いている意味がない

そっと那智に上着を掛けて那智の寝顔を覗きこんだ時、無性にその唇を奪ってしまいたい衝動に駆られてしまった

そんな事を考える自分がおかしい事は重々承知しているが、那智に対してだけは昔からおかしい自分がいるのも事実だった。

そんな事からあまり迷う事無く口付ける

キスをした後で虚しい気分になってしまった

「何やってるんだか・・・」

声に出して言ってみるが一向に心は晴れない

今日の自分は普段ではやらないような事ばかりやっている。

こんな自分に多少の嫌悪を感じた

普段なら別に那智と鉢合わせても彼を置いてさっさと帰っていただろう

それを今日は自分から那智をエレベータに引きずり込んだ

そして、こんな非常時に巻き込んだ事を謝ったのだ。いつも何かあってもお互い謝る事をしなかったのに・・・

けれど、今日の場合は先に那智の謝罪があったからこそ言えたのだと思う

彼と一緒にいた友達が俺の噂を聞いたのだろう、畏怖して鉢合わせないようにとしていた。それが普通の行動だろう。

俺についての噂が数多く出回っている事は知っていたし、その半分くらいは事実だから否定する気はなかった。

けれど、その話を那智としている事が許せなかった・・・聞きたくなかったのだ

初めて噂に関して否定したいと思ったのだ

けど、那智は噂は噂だからと信じている様子は無かった。それを聞いた瞬間、すぐにその場を離れたいと思った。その半分は嘘でも半分は事実なのだ

それを彼には知られたくないと思った。だから・・・逃げたのだ

しかし、エレベータを待っている間に那智は追いついてしまった

当然さっきの噂について振られるものだと思っていたらその話には一切触れてこなかった。



「ん・・・」

那智が動く。今まで寝ていた体勢が辛くなったのだろう、より寝やすい体勢を求めてもぞもぞと動くのを見ながらため息をついた

今にもパニックを起こしかけていたのが今ではこんなに安心しきって眠ってしまっているのだから、呆れを通り越して尊敬の意に値する

しかし、俺も那智がいなかったらあそこまで落ち着いて対応できたとは思えなかった

コイツにだけは弱いところを見せたくない。

那智も俺には弱いところを見せたくないと思っているものだと思っていた。

しかし、こんな風に無防備に眠る那智を見ると自分の思っていたことが本当に那智もそう思っていたことなのか自信がなくなってきた

じっと那智を眺める

しかし、答えなど返ってくるはずも無い

けど、もう少しこのまま居たいと思った



結局救助が来ても那智は起きる気配を見せなかった

丁度、那智の家族が出掛けていた事もあって俺の家に連れて行く

案の定、母はかなり驚いていたがすぐに俺の部屋のベッドに寝かせて再度呼びかけてみるが完全に熟睡している那智は起きるわけがなかった

コイツが熟睡したらなかなか起きないところは幼稚園時代から変わらない

「けど、ビックリしたわ〜、あんたが那智くんを連れて帰ってくるなんて」

小学校に上がってからずっと喧嘩しかしてこなかったあんた達がねぇ〜としみじみ言う母に

「エレベータで偶然一緒になって巻き込まれただけ」

とだけ言ってすぐに親を部屋から追い払う

「那智くんの分も夕食作っておくからね」

最後にそう言ってパタンと扉が閉まる

結局エレベータが止まった原因は隣のエレベータで子供が数人でジャンプして遊びでエレベータを止めたらしい。こちらのエレベータにまで被害が及んでいるとは思っていなかったらしく救助は遅くなったがそのおかげで那智と一緒にいる時間が長くなったのも事実だ

昔は那智と一緒にいる友達が羨ましかった。その感情にストレートに自分は動きすぎて結局は那智と喧嘩を続ける羽目になってしまったのだ

けど、今は・・・

時には素直に言葉をぶつけないといけないと思う。

久々に話して気付いてしまったから

俺はコイツが好きだったって事に



「あれ?」

今までエレベータの中に居たはずなのに見覚えの無い部屋に居た

何時の間に俺は眠ってしまったのだろう?

思い返しても思い出せない

しかし、それ以上にこの場所に心当たりはなかった

体を起こすとそれに気付いたのか千紘がこちらに向かってくる

「千紘・・・?」

あ、そうか。俺、千紘と一緒にエレベータで閉じ込められたんだっけ?

「なぁ、ココってどこ?」

「俺の家。お前、寝すぎ」

なるほど、どうりで俺の部屋と構造が似ていると・・・って千紘の家?

「何でお前の家に俺がいるの?」

「寝ぼけてるだろ」

起きろと頭を叩かれる

「痛いなぁ・・・別に寝ぼけてるわけじゃないって」

「お前の家に行ったら誰も居なかったんだよ」

「あ、そっか。姉貴今日から出張だっけ」

昼間は自分の姉が家にいるのが普通になっていたので忘れていた

「ごめんな、迷惑かけて」

そう言って立ち上がり自分の鞄を探す

「夕飯食ってけよ」

「いや、そこまで迷惑掛けらんないし、親も帰って食事の準備してるだろうから」

「安心しろ、ちゃんと連絡は入れてあるから」

「へ?」

「呼び鈴の所にメモ挟んでおいてきた」

「・・・ありがとう」

そういう心遣いは本当に感謝しなければいけないのだろうが、俺としては一刻も早くこの場から逃げたかった

「千紘〜って、那智くんも起きたのね。夕食できたわよ、いらっしゃい」

「あ、あの」

「遠慮なんてしないでね。折角久々に那智くんが来たんだものおばさん頑張っちゃった」

にこりと微笑んでそう言う千紘の母に敵わないと思いながら

「すみません、お言葉に甘えさせて頂きますね」

と微笑で返した。

「やっぱり那智くんがうちの息子だったら良かったのにね〜」

と言うため息まじりに呟かれた言葉は聞かなかった事にする

千紘の母の料理は凄く美味しかった

「そうそう、那智くんこの前このお豆さんを煮たやつが美味しいって言ってたでしょう?スーパー行ったら安く手に入ったから良かったら持って帰ってね」

と、大豆を煮た物をタッパに入れてくれる

「ありがとうございます、きっと姉が喜びます。健康と美容に良いとか言って最近毎日豆料理が続いているんですよ」

「あらあら、それじゃあちょっと迷惑だったかしら?」

「そんなことないですよ。俺、豆好きだし今毎日食べてるけど何か飽きないんですよね」

「そう?それなら良かったけど」

他の料理も沢山食べて行ってねと食事を促される

「もう頂いてます」

と、ちょっとお茶碗を持ち上げて笑う

千紘とは全く話さなかったが千紘の母とはよく下のホールで会うので世間話などを聞かされたり、自分も彼女は嫌いではなかったのでよく話したりしていた



「そういえば良かったわよね、そんなに大きな事件じゃなくって」

そう切り出した千紘の母が最初何を指しているのか全く検討が付かなかった

「あぁ、そう言えばエレベータが止まったのは隣のエレベータで子供が遊んで跳ねてたのが原因だったらしい」

千紘がそう説明してくれたのでそれがエレベータの話題だった事に今気が付いた

「そうだったんだ。けど、千紘がいなかったら俺絶対パニック起こしてたな」

「既に半分パニクってただろ」

「悪いかよ。あんな状況で冷静で居られるのは千紘くらいなんじゃねぇの?」

イヤミを込めて言ってやる

「その状況で眠る度胸は俺には無いな」

「うっ・・・」

それを言われると言葉が無い。

確かに俺自身あんな状況で眠ってしまうとは思わなかったけど千紘もいるし何か安心しちゃったんだから仕方ないじゃん。

それに、部活上がりで疲れてもいたし、あの時間はいつも俺にとってはお昼寝タイムなんだよ!何か悪いかよ!!

と、言葉には出さずに心の中で怒る

「けど、まぁ・・・俺も那智が居なかったらパニック起こしてたかもな」

「嘘付け。アレだけ冷静に対応してたくせに」

それは絶対にありえない!と断言するとそんなことないと苦笑を見せる

「何か二人共今まで顔を合わせたら盛大に喧嘩ばかりしてたのにいつの間に仲良くなったの?」

と不思議そうな顔をして尋ねてくる千紘の母にその問いは自分も知りたいと思いながら苦笑で返した



夕食が終わり再び千紘の部屋へと戻る

小一時間ほど雑談をした後

「んじゃ、俺そろそろ帰るわ。今日はありがとな」

と、時計を見て自分の鞄を持って玄関へと向かう

この頃にはあんなに逃げたいと思っていたのにまだ話し足りなく、帰りたくないという思いの方が強かった。

最初こそぎこちない会話だったが話すうちにそのぎこちなさも全くなくなっていたのだ

「おばさーん!夕食ご馳走様でした!美味しかったよ」

台所にいる千紘の母に声を掛けて外へと出る

「那智、またな」

「うん。またね」

その後も千紘と話すようになったのはコレがキッカケだったと思う。



「千紘?」

まだボーっとする頭を何とか起こして隣にいるはずの千紘に声を掛けた

パサッと上着が落ちる。

千紘が掛けてくれたのだろう。

その本人を探すが見当たらない

先に教室に帰ってしまったのだろうか?そう思い教室へ向かおうとして足を止めた

どこかで話し声がする

扉を挟んだ向こう側だ

裏に回ると千紘と数人の男子生徒が居た

千紘は知り合いが多い。

いわゆるサボリ仲間と言うやつだろう

声を掛けるかどうか迷ったが結局声は掛けずに帰る

あぁいうやつらと自分は関わるつもりは無かった。

結局あいつらは千紘の“友達”ではない。



「那智?」

先ほどまでそこで眠っていたはずなのに姿が見えない

自分の上着もなくなっているという事は上着を持ってどこかに行ってしまったのだろう

「何?逃げられちゃったわけ?」

ゲラゲラとその場に居た奴らは笑っているがそいつらの事は無視をする

恐らく自分に何も言わずに戻ったのにはコイツらが関係している事は明らかだ

「俺も教室戻るから」

一言声を掛けて階段を下りる

階段を下りきった所の階段の影で那智を見つけた

「那智?何やってるんだ?こ・・・」

こんな所で・・・と続けるはずが途中で口を押さえられる

「シー!!まだ授業中なんだから」

それを聞いて納得した

時間を確認し忘れていたがまだ廊下を出歩くには早かったらしい

「物凄く焦ったじゃん。あ、コレありがとな」

千紘に上着を返す

「いや・・・それより突然お前が居なくてビックリした」

「あー・・・何か話してたし邪魔したら悪いかなって」

「普段なら割り込んでくるのに?」

教室で誰かと話しているといつの間にか那智が同じ会話に加わっている

逆に自分も那智が誰かと話していると気になって会話に入っていく

「そう?まぁ、気分だよね?」

気分で会話に加わるか加わらないかが決まっているのか・・・お天気屋かよ。

那智がゆっくりと頭を俺の肩に乗せてくる

「那智?」

突然の事で驚いて声を掛けるが返事は無い

「まだ眠いのか?」

「んー・・・そう言うことにしておこうかな」

「何だそれは」

微笑する千紘には気にせず、そのまま目を閉じる

単に千紘に少し甘えたかっただけだ

千紘もそれが分かっているので大人しく肩を貸す



別に俺たちは恋人とかってわけではない。

俺一人が片想いをしているだけ



こんなに近くにいるのに

結局はまだまだ遠いのかもしれない。





FIN.




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