[01] プロローグ

あの音を奏でていたのは誰だったのだろう・・・



とても楽しかった。



もう戻れないあの時は・・・一番楽しかったと思う





気がつくと手を縛られ身動きが取れない

本気で抵抗をする気はないが無抵抗では全く面白くもなんともない。

今は『仕事』中なんだから



「んっ・・・」

「へぇー、まだ意識があるんだ」



今日の相手は最近の中では相当若く容姿も良い。

きっと誰もがこういう男に『カッコイイ』という言葉を用いるのだろう。

しかし。好きなタイプではなかった



「やっぱ、可愛いねー。この辺でNO.1を名乗るだけある」



別に好きでNO.1になったわけじゃない。

いつの間にかそうなっていたのだ

好き勝手にまた弄り始めたので素直に体を預け、求める

いつものことだ。

つい最近暇を弄び、誘われるまま危険と言われる繁華裏へと足を踏み入れた

この『仕事』をはじめてから数日であっさりとこの界隈のNO.1になってしまった。

不本意だが男受けがいいらしい。

勿論女にも誘われるときはある。

思いもよらぬ自分の一面を見つけた

しかし、このことは意外にも『時間潰し』にはもってこいだった



「もう1回いい?」



散々弄ってその気のくせにわざわざ了承を取ってくる

ダメと言ってもやるくせに



「いいよ。そのかわり・・・」

「勿論弾んでやるよ」



そういうや否や深いキスをされる

そんなことが言いたいわけじゃないと反論したかったが反論の言葉は言葉にならなかった

ようやくキスから解放された頃には既に喘ぐことしかできなかった



みんな勘違いするけれど別に『お金』が欲しくてこんなことをしているわけじゃない

かと言って『情報』が欲しくてこういうことをしているわけじゃない

この界隈でこういう『売り』をするのはほとんどが無い物を補うためだ

欲求を満たす為。と、いうと自分はそれに当てはまるかもしれない

どうでもいいのだ。

時間さえつぶせれば

楽しければ・・・



「ココに置いておくからな」

男のそういう声で目が覚めた

「ん・・・」

うっすらと目をあけて起きようとしたが立てなかった

「痛っ・・・」

「昨日のお前が可愛すぎてやりすぎたかな」

傍まで来てそう言い起こしてくれた

「立てるか?」

心配そうにそういうが首を横に振った

「そうか。じゃあ今日1日ココを使えるようにしておいてやるよ。動けるようになったら帰れ」

その言葉に静かに頷いた

「明日までには動けると思う」

「やり慣れてなさそうだしな。明日も無理かもよ?」

そう笑って言う男に、少し怒って

「そこまでひ弱に見えますか?」

と聞いてみた

「こんな華奢で細くてどこがひ弱じゃないんだよ。今にも折れちまいそうなのにな」

手首を握られ、その握られた手を見た

確かに自分の手と相手の手では大きさが違う。

そのことに少しコンプレックスを感じた

「鍛えようかな・・・ジムでも通えば筋肉つくかなー?」

「ハハッ、君は今のままでいて欲しいな」

「体力ないってバカにしたくせに」

「悪かった。ほら、横になって寝てろ」

折角起こした体を横にさせられる

「どっちにしろまだ朝早い。俺はそろそろ帰るけど本当にゆっくり休んでから行けよ」

時間を確認するとまだ朝の4時だった

「分かった。おやすみ」

「おやすみ。ミキ、良い夢みろよ」

チュッと額にキスされて男は部屋を去っていく

ぼんやりと見送ってそっと目を閉じた

いつもと同じ

この別れる時がいつも寂しい。





行かないで・・・



思わず手を伸ばしてしまいそうになるのをグッと堪える

いつか現れるのだろうか?

自分を愛してくれて置いていかない人を。ちゃんと愛して接することができる人を

もし、そんな人が現れたら・・・

こんなところで暇を潰さなくてもいいのだろうか・・・




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