[02]

目が覚めると太陽は随分高い位置にあった

「あっちゃー・・・今日はサボリだな」

そう呟いてそっと起き上がる。

身を清めてくれていたのだろう。気持ちの悪さも違和感も全くない

服を身に纏いながらふと電話の横に封筒を見つけた



「お金が欲しいわけじゃないのに・・・」



グシャッと封筒を握り潰してポケットの中にねじこんだ





本名は浅木美希也。この界隈での呼び名は『ミキ』普通は本名とはかけ離れた名前を呼ばすらしい

一応本業は『学生』だ。

この界隈での『仕事』は遊びであり時間つぶしだ

それなのに学校をサボってしまっている。

今から行こうかどうか迷ったが、結局たまにはいいかとサボることにした





「こんにちわー」

馴染みの店に入る。ドアにはCLOSEの文字が見えたが気にしない

「まだ開店時間には時間がありすぎるぞ。ココは夕方17時からの開店だ」

冷たい声が返ってくる

「いいじゃん、マスター。そんな冷たいことを言わないでよ。俺とマスターの仲でしょう?それより冷たい水が飲みたいなー」

そう言うとため息と冷たい水が出てきた

「ありがとう」

水を受け取り一口飲む

「それよりお前学校じゃないのか?」

「あー・・・今日はサボリ」

「お前は・・・本職は学生だろう?こんなつまらないところで足枷を嵌められてどうするんだ?」

呆れられた

「うまくやるよ。どっちにしろ暫くこっちにはこないし」

「そうなのか?最近毎日来ていたくせに」

「あー・・・うん。ちょっと見回りが強化されたみたいでさ。表通りに先生や警察が多くなってね。補導されたくはないし」

「なるほどな。それで昨日は羽目を外したのか?」

「違う。それは相手が悪かっただけー」

不満そうにそう言った。事実まさかココまでやられるのは想定外だった

「ほどほどにしておけよ」

そういいながらコーヒーを出してくれる

それをゆっくり飲みながら昨日の話をマスターにしていた

ココは自宅のような存在だ。マスターは父や兄のようで家族のように慕っている。

ココにきはじめたのはこの界隈に足を踏み入れて間もない頃だった

たまたま入ったこの店の雰囲気とマスターの人の良さに惹かれてココを拠点として動き回るようになった

そして、昔の話をしたりするうちにマスターは俺についてはかなり詳しくなっている

恐らく本当の家族以上に俺のことを理解しているだろう。



夕方、ようやくお店のドアに下げられているプレートがOPENに変わろうとする頃突然扉が開いた

カランッと音を立ててベルが来訪者を伝える

「こんにちは。開店前にすみません。美希也来てませんか?」

この声に咄嗟に隠れようとしたがしっかりと目が合ってしまった

「居た!お前、学校サボって何やってるんだよ!!」

私服に着替えてきたのだろう。クラスメイトの沢田圭介が現れた

先日まで学校に興味がなかった俺はクラスメイトにも当然興味がなく友達もできずにただ日が過ぎていただけなのだが

たまたま事件に巻き込まれ、そこを助けてくれたのがこの沢田圭介で、それ以来何かと声を掛けて気にしてくれている

この学校での初めての『友達』だろう

「あははっ・・・ちょっと動けなくて寝ちゃったらもうお昼過ぎててさ・・・」

それだけで昨日何があったかは分かる

「バカ!もうやめろって言ってるだろう!!最近先生たちの見回りも強化されてるんだ。今日のHRでも言ってたぞ」

「昨日見たから知ってる。当分はおとなしくしてるよ」

最近ずっとやりすぎというくらいやっていたのでそろそろ大人しくしていようと思う

「そうだ。圭介、俺さ身体を鍛えたいんだけど、やっぱジムに行くべきかな?それとも空手とかの教室の方がいい?」

「はぁ?お前が鍛えるって・・・何かあったのか?」

「んー・・・体力つけようと思っただけ」

今朝早くのできごとを圭介には話す気になれなかった。

事情を知っているマスターの静かに笑う気配を無視して

「圭介、この後は暇?」

と話題を変えた

「暇だよ。遊びに行く?」

「行く!」

普通にこうして遊びに出かけたりするようになったのもつい最近のこと

「じゃあ、マスターまたね」

マスターに手を振り圭介を連れて外へ出た




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