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そろそろ帰ろうかという頃、最後に本を借りて行くと言う圭介に付き合い自分も何か本を借りていくことにした
「何か美希也が本を読むっていうのもイメージがないよなー」
「悪かったなー見た目も中身も馬鹿なのに本を読んで」
ムッとしたので言い返すと
「いやいや、知識を詰め込むのはいいことだって。例え馬鹿でも知識があるのと無いのとでは大きな差だしねぇ?」
物言いたげな口ぶりにイラつきながら本を選ぶ
今は文学より軽い小説を読みたい気分だった
「あれ?文庫小説?てっきり純文学辺りかと思ってたのに」
「ここにある伝記は大体読んだし、文学っていう気分でもないし、もっと何も考えなくてもいいような物が読みたくてさ」
「ふーん、珍しいね。それなら××出版社のこの作品なんか面白いよ」
圭介の勧める本を見ると少し前に何かの賞を貰っていた作品だった
未だに読んだことはなかったので、勧めるのならばと本を手に取る
「面白そうなあらすじだし、コレにしようかな」
あれやこれやと圭介が本に関して色々説明してくれたが、ほとんど聞き流して図書館の入り口にある貸し出し受付へと向かった
入り口のところでは先ほど別れたがどうやら待っていてくれたらしい楓と聡広が何か話していた
早く受付を終わらせようと本と貸し出しカードを差し出し判子を押してもらう
「あれ?浅木美希也くん?」
突然図書館の受付の司書の人に名前を呼ばれる
「はい?」
何か不備があっただろうか?とカードを見るが別に不思議なことは何も無かった
何かあったのかと思いその人の顔を見ると何故か驚いた顔をしていた
「彩先生?」
不審に思い司書である金井彩に声を掛ける
この学校では司書でも先生と呼ばれていた
「え、あ、ごめんなさい。ちょっとビックリして・・・あの、間違えてたらごめんなさい、貴方はずっとココに住んでいるの?」
「いえ、今年の春こちらに出てきたばかりです」
そう言うと何か確信したような表情をしていた
言いたいことが何か大体分かったがそれについて言うわけにはいかない
「そうだったの、まさかこんな場所で会えるとは思わなかった!実は私以前貴方と会った事があるのよ?」
カードに判子を押しながら冷静さを取り戻した彩がそういう
いつの話だか全く検討が付かないが会った事があるというならきっとそうなのだろう
「まぁ、大分前だし、浅木くんの場合沢山の人に会ってるだろうから忘れちゃってるかな?」
「すみません・・・覚えてないです」
正直にそういうと彩は少し残念そうな顔をして「そっか」と呟いた
「はい、お待たせしました」
お決まりの諸注意を述べながら本を渡してくれる
「あ、浅木くん!ちょっと待って!」
何か思い出したように慌てて引きとめ、彩は図書資料室へと入って行き数分もしないうちに何かを持って戻ってくる
「コレ、よかったら読んで」
そう言って渡してくるのは見知った雑誌だった
「先生・・・俺はもう・・・」
「お願い!本当は根堀り葉掘り聞きたいし、色々言いたいんだけど、今は浅木くんに会えたことで舞い上がってて上手く言葉にできないだろうから、それはしない。けど、ちょっとくらい知っててもいいと思って。昔の知り合いが今どこにいるのかを」
率直な言葉はきっと嘘ではない
昔の知り合いがどこにいるかなんて、きっと今知る必要も無いことだ
そう思うのに何故か雑誌を受け取ってしまった
この行動に自分自身が一番驚いている
「ありがとう!とりあえず、眺めてみてね」
そういう彩に曖昧に頷いて図書室を出た




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