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日曜日の夕方、自宅へと帰る
「じゃあ、納谷さんありがとうございました」
「いやいや、俺こそ有意義な休日を過ごさせて貰ったからね。楽しかったよ、美希也くん」
にこりと笑う納谷にこちらも笑みを返す
土曜日の約束に圭介も駄目だったので納谷に声を掛けてみたのだ
一人でも良かったけれど、一人で行きたくはない場所だったから少しでも気が紛れる人が良かった
その点では納谷は近すぎず、遠すぎずのいい距離を保った友人関係だと言える
「またメールするね」
「はい、またメールで」
聡広との関係は俺からは言っていないので知っているかどうかなど分からない
しかし、そういう話題には触れないからこそ普通の交友ができているのだと思う
本当は聡広について色々聞いてみたいのは山々だけど、それをしてしまうと全てのバランスを崩してしまいそうで怖かった
納谷の車を見送って家の中へと入る
そして、靴の多さに驚いた


「ただいま」
リビングを通る時に一応顔を出してみた
「お帰りなさい、早かったわね」
出迎えてくれたのは母だった
「あ・・・うん。この後圭介と約束があるから」
「そうなの・・・あんまり夜遊びはしちゃ駄目よ?」
今まではっきりと注意されたことなどなかったから少し驚いた
「うん・・・でも、今日はご飯一緒に食べるだけだから」
夜出歩くことに変わりはないが、いつものように遊びまわるのは控えようと思いそう言った
「もう・・・それより、お土産があるの」
夜出歩くことじたいを咎めたいのだろうが、諦めた様子で話題を変える母に続きキッチンの方へと行きお土産だというお菓子を見る
「どっか行ったの?」
「えぇ、美希也は田舎に帰るって言っていたからどうしようかと悩んだんだけど、温泉に行ってきたの」
「へぇー、だから温泉饅頭か」
確かに温泉土産の定番だ
「嫌いだった?」
「好きだよ」
にこりと笑って一つつまむ
饅頭系統はよく祖母の家にあり、小さい頃からおやつの定番でもあったので嫌いではない
「よかった。お茶にしましょうか」
母も笑って緑茶を用意している
俺の好みを手探りで探しているような母の気遣いには嬉しい反面悲しくなる
そこまで気を使わないでいいのに
お茶の用意を手伝いリビングに戻る
今まで考えないようにしていたのにしっかりと聡広の存在を目に入れてしまった
家庭教師期間は終わったはずなのに何故いるの?
隣で談笑していた楓が手招きで俺を呼ぶ


何で・・・?


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