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「今回の旅行に家庭教師のお礼を兼ねて先生も一緒に来てもらったのよ」
笑ってそう言う母の言葉がずしりと重く響いた


土日の予定というのはうちの家族旅行だったわけ?
だったら、はっきりと言えばよかったのに
何も知らないのは俺だけ?


「そうだったんだ。あ、コレ。お祖母ちゃんから。あと、今度お供え物を分けて送るって言ってたから宅配便が届くと思う」
「あら、お饅頭ね。ありがとう。後で電話しておくわ」
お茶を配るのを手伝う
こんなもやもやした中で彼らと一緒に居るのは危険だと分かっていたけれど、どう逃げたらいいのか分からない
「そうだ、兄さん達も来てたんでしょう?どうだった?」
「え?叔父さん達?えーっと、特に変わりは無かったけど?」
「そう・・・本来なら私も行くべきだったんでしょうけど」
「仕方ないよ。浅木の中でもほんの身内だけの法事だったんだし」
複雑な家庭事情とは言え、ココまでこじれると複雑すぎる気がする
母親達は高里の姓なので浅木とは関係ないとみなされてしまっているのだから
「えーっと、ちょっと出かける準備もしたいし俺もう部屋に行くね」
話が長くなる前にこの場所から逃げ出したくてそう切り出した
さっさと立ち上がると母親は名残惜しそうだったが特に引き止められることはなく部屋へと向かう
「むかつく」
何この気持ち。
もやもやした、渦巻くような嫌な気分


「美希也」
追ってきたのだろう、何が言いたいのか想像が付く
「何?」
振り返ることなく聞き返す
弁解?それとも、試験を休んだことへの説教?
「その・・・追試明日だろう?試験前なんだから出かけない方がいいんじゃないか?」
「もう充分だと思うくらい勉強したよ」
説教なんて聞きたくない
「でも、まだ時間はあるんだからできるだけのことをしておいたほうがいいんじゃないか?」
「別に満点取りたいわけじゃないから」
部屋のドアノブに手をかける
「それだけ?」
「いや・・・法事は金曜だったんだろ?昨日・今日は、その・・・お祖母さんの家に居たのか?」
「そうだけど?この週末は最初からその予定だったしね」
寝泊りしたのは確かに祖母の家だけど、昨日は納谷と出かけて、更に納谷が泊まって行った・・・とは言わない。
「こないだ、この土日と言っていたのは出かける予定があったのかと思ったけど・・・法事のことだったのか?」
「違うよ。知り合いの公演に招待されてて、それで誘っただけ。聡広も圭介も駄目だったから納谷さんを誘って行ってきたよ」
納谷の名前を出した時に何か言われるかと思ったが「そうか」の一言で特に追求されることはなかった
「もう・・・いい?」
ドアを開けてそう聞いた
「・・・美希也、どうしても勉強しないつもりか?」
また話をそこに戻すのか・・・
「じゃあ、先生。勉強頑張るから、できたらご褒美くれる?」
くるっと、ココに来て初めて聡広の顔を見た
「ご褒美?」
「そう。追試科目、全て80点以上だったら再来週の水曜日にあるお祭り、一緒に行こう?駄目?」
「いいよ。分かった」
「約束ね?久しぶりにデートしよう?」
「あぁ、頑張れよ」
・・・80点なんて取れないと思ってそんなに簡単にいいと言ったの?
悪いけど、俺80点以上確実に取りに行くよ
デートと強調したの気づいてる?


さぁ、賭けよう。
自分自身と聡広に
どうか、勝てますように!



「圭介、ごめん。そういうわけで今日はキャンセル!」
『はぁ・・・。まぁ、いいけど。試験勉強手伝ってやろうか?』
キャンセルの電話を圭介にかけると試験の心配までしてくれる
俺にとってこれ以上ない友人だ
「大丈夫。試験の出題傾向は今までの試験で把握済みだし、何とかなるよ」
嬉しい申し出だがこれ以上迷惑は掛けられないとそう返す


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