ないものねだり[前編]
※ウリ・暴力・性的表現が軽くですが含まれます。閲覧は自己責任にてお願いします。



仲間?そんなんじゃないよ。
でも皆何かしらが欠けているんだ。
それを補いたい。ただ、それだけ



夜の繁華街は騒がしい
家に居たくなくて外の街へと繰り出す
家族が心配する?家族って何?


俺にとっての家族はいない。


そう、思っている。
高校進学と同時に俺を生んだ両親と一緒に暮らすようになった
しかし、4歳から高校進学までの期間を祖母の家で過ごした俺にとって、彼らは他人も同然
彼らも俺とどう接していいか分からず距離があった
そんな息苦しい家。
ずっと居たいと思えなくて少しでも一緒に過ごす時間が減るようにと外へと出る


ただ、時間がつぶせれば何でも良かった。
そこに何かを求めたわけじゃない。望んでも何も手に入らないのは知っているから
努力しても、報われないことを知ってしまったから。


「待ち合わせですか?」
「・・・そうです」
突然声を掛けられ、そちらを見るとスーツを着た若い男が立っていた
この付近は待ち合わせで定番の場所
自分もその1人であることに変わりは無いけれど、正直まだ慣れてはいない
「歌なんかは好きですか?」
「はい。和歌ですよね?来ぬ人を 松帆の浦の 夕なぎに・・・とか」
「焼くや藻塩の 身も焦がれつつ。お待たせしました。行きましょうか?」
合言葉であるこの歌のやり取り
この場所ではこのルールがある
関係ない人を巻き込まないようにと始まった物らしい
俺はたまたま初めて外へと遊びに出た日に、このルールがあるにも関わらず、目を付けられたようで、遊んでみないかと誘われた
どうでもよかった。
ただ、楽しく時間が過ごせるのならばと足を踏み入れてしまったのがこんな世界だっただけ
それ以来、度々ココに来る


ココに来るようになって2週間。そろそろ5月に差し掛かろうかという頃合い
実際足を運んだ回数としては多くないと思う。それでも、いつの間にか俺はこの界隈では噂の人となっているらしい


危ないことをしているという自覚はある
でも、実際これが危険すぎることだという自覚は無かった
この事件に巻き込まれるまでは。



今日声を掛けてきたヤツは一般人のように見えて実は違うようだ
オーラから一般人かそうじゃないかはそれなりに見分けがつく
しかし、何をやっているヤツかまでは分からない。ただ、普通の人とは違うと漠然と分かるだけ
誰がどんなことをしていようとどうでもいい。


「ふっ・・・ぁっ」


室内に漏れる自分の声にドキッとする
このゾクゾクする感覚はいつも自分を狂わせる


『バンッ』


扉を思い切り蹴破られる音が響く
ビックリしてそちらを見ると数人の若い男達が部屋に入ってきた
「よぉ、お楽しみのところ悪いな」
リーダー格の奴がそう言いながらも俺の上に居る奴に手を掛ける
「ふーん?真面目そうに見えてしっかり遊んでたんだな?てめぇ」
「お前には関係ないだろう?それに、女に手を出してたわけでもない。浮気でもない。遊びだ」
ハッキリとそういう男
「ハッ、最低だな。そいつもだけど、お前はもっと最低だ。」
そいつと俺を指していう奴に少し苛立つ
何故初対面の奴にそこまで罵られなければいけないのだろうか?
でも、何か行動を起こすつもりはない
下手に煽るほうが厄介だからだ
「そんなに金が欲しいのか?それとも快楽にはまった変態か?」
俺に聞いているのだろうか?もしそうなら答えはどちらもNOだ。
時間さえ楽しく潰せればそれでいい
「おい、聴いてるのかよ?どっちなんだよ?」
答える気なんて無いからただぼんやりと天井を見つめる
正直興ざめだ
「チッ、シカトかよ。おい、こいつらは好きにしていいぜ。そのかわり、しっかり痛めつけてやれよ」
俺も含まれるようだ
とんだとばっちりだ。関係ないのに。
でも、今日こいつに捕まった時点で関係が生まれてしまったのだと思う
運が無かった。それだけだろう


静かに瞳を閉じる
何をされるのかなんて分からない。けど、動く気力もなかった




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