[45]

「美希也、そろそろ帰ろう」
楓達も起きて昼食を皆で食べ終わった頃
楓が真剣な表情でそう言った


「帰らないよ。でも、楓達はもうココから出たほうがいいね。送っていくよ」
薄く微笑み軽く返し立ち上がると後ろから強く肩を掴まれて椅子へと戻された
「美希也、俺が行く。お前はまだ出るな」
「あー…まぁ、まだ昼とはいえど今日は危ないしね。お願い」
と、楓達は圭介に任せることにする


「それじゃあ、気をつけてね」
そういいながら手を振ると
「美希也!いい加減にしろよ!こんな危ない場所に居るって分かって置いていけるわけがないだろ?!母さん達だって知ったら怒るぞ」
「…ココが危ないのは分かってる。でも、ココがいい。さ、もう行って。そしてもう関わらないで。次はもう、俺じゃ助けられないから」
そういうルールだから
「今は、昨日の今日でかなり危険だから外に出れないけど、明後日にでも一度家に帰るよ。約束する」
一度帰ったら楓達に家に軟禁…いや、監禁されてしまいそうな気がするけれど
今約束できるのはそれくらいしかない
「…わかった。じゃあ、明後日。待ってるからな」
最後にそう約束して楓達は店から出て行った


「圭介以上にアレはややこしそうだな。過保護度では負けないんじゃないか?」
マスターが俺の前にコーヒーを置きながらそう言った
マスターを見るとその表情はなんとも言えない苦笑いを浮かべている
「そうだね…アレもある意味過保護なのかな?」
今まで気にしたことはなかったけれど
交流らしき交流を聡広が家に来るようになるまで、した覚えがなかったけれど
楓はなんだかんだと世話を焼いてくれていたようにも思う
俺が、気づかなかっただけで


「ちょっと悪いことしたな」


自分のことでいっぱいいっぱいで、周りを全く見ていなかった。
特にこっちに来た頃は荒んでいたから余計に…
「ふふっ、あの時の俺が今くらい余裕があって、ちゃんと楓達のことも見れてたら、俺ココに来てマスターと出会うこともなかったのかな?」
ねぇ、どう思う?とカウンターの上に肘を置きその上に頭を載せてマスターを見上げる
「…さぁな。けど、1つ言えるのはお前にとってはココに足を踏み入れることがない方がよかったんだろうな」
「ナニソレ!俺とマスターの出会いはなかったかもしれないと言うのに!」
ガバッと起きて抗議すると
「お前にとってはと言っただろ」
と返された
と、言うことは…
「マスターにとっては俺と出会えてよかったと思ってくれてるってことだよね?」
そう確認すると「まぁ、そうだ」と肯定してくれる
ニヤニヤと締りのない顔を晒しながら
「俺もやっぱりマスターや圭介、タキや『楽園』、この街の皆と出会えないのは寂しいから、これでよかったんだと思う」
と思ったことをそのまま口にする
やっぱり、俺はこの街に惹かれてしまう
同じ類の仲間のようだ


「まぁ、そう考えるお前だからこそ、この街はお前を認めたんだろうな」
しみじみとマスターがそう言ったが、その声にチリンチリンとドアに付けている風鈴の音が重なり意識が反れる
「いらっしゃいませ!」
反射的にそう返し、お客を見て少し驚いたが、改めて
「いらっしゃい」
と笑顔でお客を出迎えた




あれもこれもと欲張りに
まだまだ続く夏休み


夢じゃなく現実に、少しだけ楽しみを見つけた気がした




Summer vacation End


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