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放課後、講師室を覗くと珍しく聡広一人しか居なかった
「高林先生」
声を掛けてみるとすぐにこちらに気づき
「どうかしたか?」
と笑みを向けてくれた
「いえ・・・ちょっと寄っただけです。珍しいですね、先生一人って」
「あぁ、他の先生方はもう今日は授業もないし帰ったよ。誰かに用があったのか?」
「別に無いですよ。用があったとすれば、高林先生に・・・かな?」
「・・・俺?」
「えぇ、入ってもいいですか?」
「どうぞ」
扉と室内奥の席との遠い距離から、高林の隣の席へ移動し座る
「ねぇ、先生・・・相談してもいい?」
そう言うと見ていた書類から目を離し、一体何があったんだ?という視線をこちらに向ける
「珍しいな、美希也が俺に相談なんて」
「先生、ココ学校」
誰が聞いてるか分からないんだから名前呼びはNGだよと指で×を作る
「ココには誰もいないさ。けど、扉が全開だったな・・・気をつけるよ」
「うん。それでね、相談なんだけど・・・」
「あぁ、なんだ?」
「最近ね、凄く心配なことがあるんだ」
と机に頬杖をついて軽く聡広を上目遣いで見上げる
「心配?何かあったのか?」
「何かあったのかと言えばあったし、無かったと言えばなかった。でも、心配なんだ」
「はぁ?」
訳の分からない俺の説明に聡広は困惑した表情を浮かべている
「どうしたらこのモヤモヤは消えるのかな?」
「・・・つまり、浅木は何か分からないけどモヤモヤして気持ち悪い感じがしていて、それを解消するにはどうしたらいいかってことか?」
「そう!さすが先生。今のでよく分かったね」
にっこり笑ってそう言うとため息で返された
「時間だろうな」
「時間?」
唐突に返された言葉を鸚鵡返しで聞き返す
「あぁ、不安なことだって、蓋を開けてみれば呆気ないことだってあるだろう?そんな感じだよ」
「・・・そう。そっか・・・時間、か」
このモヤモヤは聡広のことなんだけど、それも時間が解決してくれるのかな?
「うん。何か、今考えても仕方ないようなことに思えてきた。先生、ありがとう」
お礼を言って立ち上がる
「帰るのか?」
「うん。帰ります。それじゃあ、先生また夏休みにね?」
ばいばいっと小さく手を振って教室を出る


多分、次会うときはお祭りの日だろう。
待ち合わせは昨日の間に決めてある
どこから回るかも考えてある。きっと楽しめるはずだ
勿論、そこに聡広が来れば・・・の話だけれど



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