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大切な物は気付いた時にはもう手から離れている


いつも気付くのが遅いのだ


なんでだろう?
何で望む物は手に入らないんだろう?
何で、分かっているはずなのに望んでしまうんだろう・・・


自分のあまりの愚かさに自嘲の笑みを浮かべる
「これで最後。最後に、しよう」
ブランコに腰掛けゆっくりと目を閉じる


これ以上、期待して傷つかないように
ごめんなさい。
俺は臆病で弱い人間なんだ


だから・・・どうか、期待させて。
まだ何かを望んでもいいのだと


「美希也」
名前を呼ばれる
目を閉じていても、聞き間違えるわけがない
来てくれたことに少しホッとする
でも、目を開けるのは怖いんだ


どうか・・・
居ませんように!


ゆっくりと目をあけて俯いていた顔を上げる
目をあけてすぐ見えた物は誰かの足
声の主だとすれば聡広のものだろう
ゆっくりと視界も広がる
「大丈夫か?具合でも悪いのか?」
俺の行動に、聡広が心配そうに俺の顔を覗き込む
「うんん、何でもない!大丈夫だよ」
聡広に笑顔で返す


今この場所には俺と聡広しかいない。
楓は一緒ではないんだ



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