[64]
「美希也?」


俺の様子がおかしいことに気付いたのだろう
声のトーンが少し変わる


・・・ばっかみたい。
期待なんかするんじゃなかった。


そして、聡広が一人で現れたからって・・・なんでもっと慎重にならなかったんだろう。


本当に馬鹿だ
糠喜びで浮かれて、舞い上がって


勝手にショックを受けている


「美希也?どうしたんだ?」


これが最後
最後の期待だったのに
残念だな・・・


「先生、お別れしよう」
顔を俯かせて表情を見せないように気をつけながらはっきり言った
きっと酷い顔をしてる・・・
聡広は驚いてる?
それとも、やっと切り出したかと笑っている?
「突然どうしたんだ?」
「突然じゃないよ。決めてたんだ」
そう。最初から決めていたんだ。
楓が出てきたら、別れようって。
「・・・どういうことだ?」
「先生の方がよく分かってるんじゃない?」
気付いてないと思ったの?
聡広が好きなのは楓なんでしょう?
最初から俺じゃなくて楓を見ていたくせに
でも、それを、俺は自分を見てくれているんだと勘違いしてしまったんだ


気付いても、恋人という場所を離れたくなくてしがみついてた。
もしかしたら俺の考えすぎかもしれないし、そのうちまた以前のようになるかもしれないって期待したんだ。
一度変わってしまった関係は戻るはずなんてないのにね。
「先生ー!美希也!」
公園の入り口の方から楓の声が聞こえる
「それじゃあ、俺は帰るね」
最後は笑顔で別れたい
無理やり笑顔を作り顔を上げた
「美希也、まだ話は終わっていない。それに俺の方がよく分かっているってどういうことだよ」
「・・・そんなこと、俺に言わせるの?」
聡広が腕を掴む
「二人ともどうしたの?美希也、大丈夫?泣きそうだよ」
楓に指摘されて本当に涙が出そうになった


何でお前にそんなこと言われないといけないんだよ!
理不尽な感情だとは思うけれど一度渦巻いた感情は止まらない
どうか、暴れたくなる前に消えて
いや、俺が消えるのか。
彼らの前から
最初から俺はここにいるべき人間じゃないものね・・・



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