[08]

翌日、約束どおり高林の所に行き一緒に待ち合わせをしているらしい店へと向かった

「高林先生って車通勤だったんだ」

別にどうでも良い情報だが意外だったのでそう言った

「まぁ、自宅は近いんだけど、何かと車だと便利だしな。それよりそこの店だよ」

そう言って指された店はシックで落ち着いた雰囲気なレストランだった



「聡広!」

中に入ると奥の方から高林先生の名前を呼んで手を振っている人がいた

「納谷、久しぶり」

その納谷と呼ばれた人がいる所まで行く。

見た感じ茶髪でラフな格好をしているせいで軽く見える

「で、そっちが電話で話してた子かな?」

「そうだ。浅木美希也って言って俺の勤めている学校の高校1年だ」

「初めまして。浅木美希也と申します。今日は宜しくお願いします」

「こちらこそ、初めまして。納谷和彦です。よろしくな。あとそんなに畏まらなくていいから」

お互い挨拶をして普通に接してくれと言われる

「とりあえず座って、何か食おうぜ」

そう言ってメニューを渡された

何が美味しいのか分からないのでオススメメニューにしておく

すぐに注文を済ませると納谷に色々質問された



「聡広はいいよなー。こんな若い子達に囲まれてて」

「でも、どうせなら女子高とか共学の方が良かったんじゃないですか?男子校なんて華がないし」

「そうだよなー。何で女子高にしなかったんだよ聡広!」

「そんなこと言われたってたまたま声が掛かったのが今の学校なんだから仕方ないだろう?」

二人に迫られちょっと困った様子で高林先生はそう言った

いつの間にか質問から高林先生がからかわれている

「英語講師なんて引く手数多だろうに・・・かわいそうになー。でも、違う学校ならこんな可愛い生徒とめぐり会えなかったか」

可愛い生徒と美希也を指されて少し驚く

「残念ながら俺は可愛くないからなぁ・・・ねぇ、高林先生?」

「いや、充分可愛いぞ」

逆にここぞとばかりにからかわれる

「ぼーっとしてたり、しっかりしてるようで色々抜けててドジしてたりしてるところが可愛いよなぁ?」

にやにや笑いながらそう言われる

全く、いつのことを言っているのだろうか

「欲を言えば授業はしっかり聞いて欲しいんだけどね」

どうやら授業中のことだったようだ。心当たりがあるため少し罪悪感が生まれた

「すみません。もうちょっと気をつけます」

真面目に聞く気もないけれど気づかれないように隠す努力はしようと思いそう言った

それからも料理を食べながら他愛のない会話が続いた

納谷とも随分打ち解けたと思う



「次は保護者なしで遊びに行こうな、美希也くん」

そう言って「保護者」のところで高林先生を見て笑う納谷に笑って

「是非、次は仕事場を見せてくださいね」

と返した。意外にもデザイナーという仕事は面白そうな話を聞かせてもらえた

「そうだな、美希也くんなら大歓迎だね。今度おいで」

名刺をくれて、そう言ってくれた

「ありがとうございます。後でメールで俺の連絡先送りますね」

「それじゃあそろそろ行くか」

高林先生のその一言で今日はお開きとなった

帰りも高林先生に車で送ってもらった



「高林先生、今日はありがとうございました。楽しかったです」

「それならよかった。納谷の仕事場に行くときは是非俺も誘ってくれよ?」

「はい。連絡しますね」

「でも、今日は俺が引き合わせたにも関わらず後悔したな」

後悔?どういうことだろう?

分からないというように首をかしげて少し考えていると

「俺は浅木って呼んでるのに納谷の奴いきなり『美希也くん』って名前呼びだしさ」



あれ?



「高林先生、嫉妬ですか?」

クスクス笑ってそう聞いてみた

「そうだよ。何か俺より納谷との方が親しい雰囲気だったしな・・・」

まさか肯定されるとは思わず驚いたが、確かに自分の知り合いが自分より親しく話しているのは不満に思うことがあるかもしれない

「高林先生の迷惑になるなら俺、納谷さんに連絡しないようにしますけど・・・」

一応気を使ってそう聞いてみる

「いや、別に・・・悪い、そういうことがしたいわけじゃないから、是非連絡してやってよ。納谷もお前からの連絡楽しみにしてるだろうしさ」

「んー・・・わかりました」

高林先生の中で葛藤でもしているのだろうか?

「それじゃあ、そろそろ帰るわ。またな、浅木」

「おやすみなさい。高林先生」

挨拶をして家の中に入った





時間つぶしにしては充実した日を過ごしたと思う

どうせ時間は沢山ありすぎるほどある

大してやることもないまま・・・






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