[10]

夜、マスターに少しだけ遊んでくると断りを入れて繁華街へと出掛けた
勿論、表側だ。
裏側には行くなよと念を押されて、更に変な遊びはしてくるな。してきたら二度とこの店に足を踏み込めないと思えと脅されてきた。
マスターが本当に俺を叩き出すとは思えないが、実際に遊んできたと圭介あたりにバレるとお説教されるに決まっている。
あいつが怒るの聞き流すのは簡単だが、先日かなり心配させたと分かっているだけに、今は大人しくあいつの言う事を聞いておこうと決めたので変な遊びに出歩くつもりはない。
ただ、少しだけ情報収集したいだけだ


「ミキ!珍しいな。表側を歩いてるなんて」
繁華街の入り口で声を掛けられた。そいつは手をこちらに振っているので誰が声を掛けたのかはすぐに分かったが、こんな場所で会うなんて珍しいと俺は思った
「そっちこそ。普段は裏の奥底に居るくせに。どうしたの?」
ふふっと軽く微笑んで近づく
彼、アズマは俺と同じ…なのかは分からないが、『ウリ』をしているらしい
ただし、抱かれるのではなく、抱く側なのだと聞いた。
そういう趣味のヤツも居るのだろう。彼もまた見目麗しい。綺麗でカッコイイと思うような容姿だ
「客でも釣りに来たの?わざわざこんな場所に出向かなくても、貴方ならいくらでも相手は居そうなのに」
「その言葉そのまま返すぜ。お前こそ、何でこんな場所をふらふら歩いてるんだ?」
質問に質問で返される。
答えるつもりがないのだろうか?
「別に客待ちじゃないよ。今はちょっと止めてるし」
「辞めた?お前が?それじゃあ、この街のNo.1はタキになったのか?」
「…そうかもね。暫く顔出してなかったし。それで、貴方はココで何をしているの?」
あっさりとそう言うと彼は少し顔を歪めた
「何でお前はトップからそう簡単に降りたんだ。この街の1番では気に入らないのか?」
俺の質問は無かったかのようにスルーしてくる。
「…別に、気に入るも何も…たった半月やそこらで俺がトップに立ったのがまずおかしいでしょう?しかも、抱きたい子のトップなんて名誉と言うより不名誉だよ。俺、男なのに」
「そうか…男のウリの中ではお前がダントツで見目が良いからな。そうなっても仕方ないだろう。一応、抱かれたいヤツのリストにも挙がってるらしいぞ」
「そんな情報どうでもいいよ」
むしろ聞きたくなかった。男がお金を払ってまで男に抱かれたいなんて…そういう趣味はまだないし、持ちたくなどない
「まぁ、やりたくなったら言えよ。紹介してやるからさ」
ニヤリと笑うそいつにため息をつきたくなった
「あぁ、でもお前は抱かれる専門だったな…客断ちして困ってるなら、俺が相手してやってもいいぜ?」
「ご心配どうもー。生憎困ってないんで大丈夫ですぅー。てか、さり気なくセクハラしないでください」
グッと力を込めて抱き寄せられたと同時に這わされた手をパシッと払いのけて、アズマを突き放す
全く油断も隙もない。
すっかり忘れていたが、コイツはこういうヤツだった。
「つれないなぁ、ちょっとくらい味見させてくれたっていいだろ?」
「お断りです。味見したいならそれに見合う物をください。俺は安くないですよ」
にっこり微笑み返してやる
隙あらば俺を狙っていたことを忘れていた自分も悪いが、思い出した以上警戒して損はない。
「それより、いい加減、貴方がココに居る理由を教えて下さい。わざわざ面倒な表側なんて相当な理由が無かったら来ないでしょう?」
軽く睨むと、アズマは両手を軽く挙げて
「わかった、話すからちょっと場所を変えよう。そうだな…ミキの好きな場所でいいから、お茶でも一緒にしよう」
と提案された



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