[13]

「…で、俺が呼ばれたわけですか」
「そう。突然ごめんね?」
急遽呼び出したのはこの辺を拠点に出現する不良の1人マコトちゃん。漢字は誠と書くらしい。
因みに本名ではない。何故なら俺が勝手に呼び始めた名前だからだ
今ではそれが呼び名になっているけれど。
「アズマさん達にまでご迷惑をお掛けして本当にすみません。今回のことはなるべく早く片をつけようと皆で話し合ってる途中なんで、少し不自由させますが今しばらくは大人しくしていて頂けませんか?」
そう頭を軽く下げるマコトちゃんはかなりお疲れのようで、店に入った時から気になっていたが少しやつれてるように見える
「大人しくしてろって…つまりは、俺達にまで手を回せないってことか?」
アズマが容赦なくそう聞いた
え、それ聞いちゃうの?
「ハッキリ言うとそういうことです。今、特に危険なのは貴方達よりどう考えてもこの辺にたむろしてる不良達です。貴方達はまぁ、この辺の有名人とは言えど相手は不良を狙ってるわけですし、大丈夫でしょう」
なるほど。それが『楽園』の判断か
アズマの表情が怒りに染まる。うん、ちょっとまずいかな?
事情を知らない『楽園』にまずは情報を与えなきゃね


意地悪くニヤリと笑う
「ねぇ、マコトちゃん。それはちょっと甘い見解じゃないかなぁ?」
アズマが怒鳴る前に、ねぇとマコトに問いかける
「本当に俺達は安全?何でそう言いきれるのかな?」
「そ、それは…相手は俺達のことを恨んでいますし、実際狙われているのも繁華街裏を中心に活動している不良ばかり、表側には現れたという情報もありません。それを考えると、相手は『不良』を狙っているだけで他は眼中にないのでしょう」
「じゃあ、その法則は崩れたね。昨日、同業が相手側に捕まったらしいよ」
「捕まった?!」
驚き、俺とアズマに目を向けるので、軽く頷き返してやった
「あ…ぁ、どうしよう…とんでもないことになってしまってる…」
頭を抱えて落ち込むマコトに少し同情する
一番の問題は逆恨みしている相手側だというのに、至る場所で問題が発生して走り回るはめになっているのだろう
そして、その度に文句を言われているに違いない。
今日の午前中に色んな場所を回ったけど、やっぱり愚痴の方が多かった。だからこそ、情報を集めやすかったのだけれど
「マコトちゃん。こっち向いて?」
項垂れる彼をこちらに向かせて強制的に口の中にスプーンを押し込んだ。
スプーンの上には苺のスライスと生クリームを乗せてあった
「んぅ…ミキさん、めっちゃ甘いんですけど…」
「ふふっ、お疲れみたいだから。甘い物は疲れを癒してくれるんだよ?そういうわけで、もう一口。今度はチョコね。はい、あーん」
「い、イヤ…え、遠慮するッス」
「そんなこと言わずに、ほら」
無理やり口の中に押し込んだ
顔を真っ赤にさせて抵抗するマコトが可愛くてついからかってしまう。普段は目つきが悪くて威嚇するネコのような彼だが、少しつつくとこうして可愛い面もあるのだ
「…なぁ、もういいか?お前らがいちゃいちゃしてるの見てると嫉妬しちゃうんだけど」
「あ、ごめんね?でも、さっき折角俺がアズマに『あーん』してあげようと思ったのに拒否したのは、アズマだよ?」
にこりと笑うとアズマの表情は強張った。
先ほどのやり取りを知らないマコトだけが、俺が笑顔で毒を吐く理由が分からず戸惑っていた。




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