[16]

慌てて落下予想地点で受け止められるように両手を広げる
何とか俺の手の上にそいつは落ちてきた
しかし、そいつの体重と重力にしっかりと受け止めきれず一緒に倒れてしまった
「うっ、おい、大丈夫か?」
腕が悲鳴を上げているが構っている暇は無い
落ちてきたヤツは気を失っているようでピクリとも動かない
「チッ、遊び半分で上を移動手段にしてるヤツか?危ないからこれに懲りたらもう二度とビルを飛び越えようと思うなよ」
ぶつぶつと文句を言ってもちゃんと伝わらないのは充分理解しているが言わずにはいられなかった
軽く頬を叩いてみるが起きる気配は無い
「仕方ない。マスターの店に連れて行くか…」
起こすのは諦めてこいつを背負って移動しようと考えた時、俺の服が血で濡れている事に気が付いた
「え?」
視線をそいつの腹部に向けるが血はついていない
…と、言うことは背中か。
軽くひっくり返すと予感的中とばかりに血で濡れていた
「救急車…いや、ココからだと交番が近いか…」
ゆっくりとあまり振動させないように気をつけて背負い、路地を戻り少し歩いた場所にある交番を目指すことにした


「ヒッ」
「うわっ、酷そう…」
表の大通りを歩いていることもあり、自然と誰もが道を開けていく
楽で良いが好奇心剥き出しの視線はあまり心地よいものではなかった
「す、すみま、せん」
ガラッと交番の扉を開けて倒れこむ
何とか、ココまで運んだことで安堵したのと、体力が限界だったこともあった
「ちょ、うわっ、どうしたんだ?酷い怪我だなー」
警官が駆け寄って背負っていたヤツを退けてくれる
「救急車…」
ぜぇぜぇと切れた息を整えようと空気を吸い込みながら助けを求めに来たことを必死に伝えようしてみる
「突然、上からそいつ落ちてきて…でも、落ちてきた、時にはもう…怪我してた」
「はぁ?で、コイツは知り合いか?」
そう聞かれて首を横に振る
こんなヤツ、見たことがない
「そうか。とりあえず、お前はそこに座ってろ。今救急車呼ぶから」
そう言って電話を取る警官に、ホッとしながら、怪我をしてるヤツを見る
服がどんどんと赤黒く変色していることから未だに血が止まっていないことが分かる
一体どんな派手な喧嘩をしたんだ…



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