[25]

「美希也、一緒に行きましょう」
手を差し伸べる昨日家に来た分家の女の人
何で?どこに行くの?
そう思いながら首を傾げる
「貴方はね、本当は私達と一緒に暮らすはずだったのよ。それなのに…勝手に貴方だけをココに預けてごめんなさいね。でも、やっと一緒に暮らせるようになるの!一緒に、帰りましょう」
何を言ってるの?どういうこと?
預けるって何?
僕は『浅木美希也』だよ


コレは幼い頃の俺だ…
何度も見た夢だ…そう分かっているのに、俺の意思とは裏腹に話は進んでいく


「頼子!美希也をどうするおつもりですか?」
お祖母ちゃんが現れて僕の手を引っ張る
気付くと母の後ろには父親と楓が居た。楓は父に捕まりじっとこちらを見ている
「お母様、昨夜も言いましたけど、美希也を連れて帰ります。美希也は私の子供です」
ハッキリそう言った母に「えっ?」と驚く
『美希也は私の子供』って…確かに僕には両親が居ない。
お祖母ちゃんに聞いても教えてくれないし、誰も何も言わないから何かがあったのだということしか分からない。
でも、僕は『浅木』本家の子供として受け入れられているので、本家筋のどこかの子供で何かあって僕は本家の養子になったのだろうと思っていた
なのに…僕は分家の子供だったの?
浅木家は代々続く古い家で政界、医療、その他企業など様々な事業を営んでいる。
その浅木家は本家と多くの分家があり、本家と分家の差は物凄く大きい。だからこそ、まさか『高里』なんていう分家の末端の生まれだったことに大きなショックを受けた
「何を言っているんです。美希也は私達、浅木の子供です。美希也を私が引き取る時にお約束したはずですよ?」
ハッキリ浅木の子供だと言ったお祖母ちゃんに少し嬉しくなった
でも
「確かに…あの時は、私達も食べていくのがやっとで子供二人を育てるだけの力がなかった。でも、今ならちゃんとこの子達を育てられる!お願いです。美希也を返して頂けないでしょうか?」
「無理なお話ですね。一度私のところに美希也を追いやっておきながら、都合が良くなったら返してくれだなんて…こちらとしても困ります」
母とお祖母ちゃんの言い合いに何故か不安になった
「無理な話は承知の上です!でも、私達も、楓も美希也と一緒に暮らすことを望んでいるんです!楓と美希也は双子なのに…引き離してしまって…」
『双子』その言葉に違和感を感じた
同じ親から生まれて、楓は両親と、僕はお祖母ちゃんと暮らす…別に不満じゃなかったけど、何で楓には親が居る生活をしているのに、僕は…なんて考えてしまった。
一度そんなことを思うと、どんどん「どうして…」という疑問が出てくる
僕と楓、どちらでも良かったなら…なんで僕がココにいるのだろう?僕じゃなくても、楓でもよかったってことだよね?
物凄く怖くなった
僕は浅木本家に居るけど、楓は分家に居て…でも、もしかしたら、楓が本家に居て、僕が分家に居たかもしれない。
もし、もしそうだったら…?
「美希也、一緒に帰ろう?」
楓が手を差伸ばす
嫌だ…怖い…
「これから、ずっと、一緒に居よう?ね?」
僕と同じ顔がそう言う。不思議なことに僕自身に言われているような錯覚を起こしそうだった
「一緒…?」
「うん。一緒。だって、僕と美希也は双子だもん。一緒でしょう?」
違うよ!
「双子だから…一緒?でも僕達は1人1人違うよ」
「違わないよ。双子だもん。ねぇ、美希也。一緒に行こうよ。1人は寂しいよ」
そう言って両手を広げる楓
嫌だ…嫌だ!違うよ!双子だから何でも一緒じゃない!双子だから寂しいんじゃないよ!
広いお屋敷にぽつんと1人居るのは寂しいけど、でも!お祖母ちゃんや皆が居るときは寂しくないもん!それは嘘だ!!


逃げたい…
もう、何も考えたくない。どっちが僕を引き取るかでまだ口論を続ける母とお祖母ちゃん。一緒に行こうと手を伸ばしてくる楓
何もかもから逃れたくて、必死に走った




← Back    NEXT →

ページ一覧】【一言】【TOP】【HOME

Copyright(C) Shino komanami.All Rights Reserved.