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昼2時、予定通りお店が開店した
当然、昼の時間は人通りもほとんどないので来客もなし
今日から昼も営業すると予告してたわけでもないので当然と言えば当然だ
「折角ケーキ作ったのになぁー」
予想していたとは言えど、本当に人が来ないのは凄く寂しい
「まぁ、ケーキは夜にも出せばいいだろ?ミキが作ったと知ったら皆食べてくれるさ」
むしろ、行く場所によっては高値で売れるかもしれないと笑うマスターに少しふてくされながら
「別にケーキだけの話じゃないもん」
と意地を張る。
「それじゃあ、練習がてら俺に美味しい珈琲を入れてくれ」
と言われた。マスターなりに気を遣ってくれたのだろう
しかし、俺にとってはイジメのような気分だ
美味しい珈琲なんて難しいことをさらりというのだから
「マスターが淹れる珈琲より美味しい珈琲なんて難しいというのに…」
普段美味しい珈琲を飲みなれた人に対して出すには何てハードルの高いことを言っているのだろうか…
けれども、ココに来る常連客は皆マスターの美味しい珈琲を飲みなれている客ばかりなのだからそれに匹敵するくらいには美味しい物を出せないとお金を取れないだろう
以前から自分でも美味しい珈琲が淹れられたらという興味から珈琲の淹れ方は教えて貰っていたけれど、一向に上達した気がしなかった
マスターと同じように淹れているのに一体何が違うのか…
未だに分からない
「はい、マスター」
頑張って淹れてみた珈琲を差し出す
マスターの隣で俺も一緒に試飲する
それなりに美味しくできているけれど、やっぱりマスターの味には程遠い
「何が違うのかなぁ?」
むぅっと顔を顰めてみたけれど、笑われるだけだった

夕方4時
今日は昼にお客様が来客することはなく終わった

夜のための仕込みも客を待つ間に終わり、夕方5時から通常の営業がスタートする
今日も変わらない常連客が顔を覗かせ、いつものように接客をしている時に、事件が起きた

「ミキ!ミキ、ココにいる?!」
チリンと風鈴が可愛く音を立てながら、けれどもバタバタと慌しい足音が店内へと転がり込む
「はーい、お呼びですかぁ?ご主人様」
「あ、居た!ミキだ!って、ご主人様って何やってんの?」
「給仕ごっこ」
女の子じゃないからメイドじゃないよ。執事でもないよ。
ウェイターだから間違いじゃないでしょう?とにこやかに笑うと俺がココに居るか確認しに来た奴も少し笑ってくれた
「それで、俺に何の用だったの?」
そう聞くと、用件を思い出したのか、真剣な顔をして
「俺、ミキのドッペルゲンガーを見たんだ…そいつが不良に絡まれてたから助けたんだけど…不良とやりあってる間にそいつら逃げちゃって」
…ドッペルゲンガーって…

まさか…ねぇ?


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