[33]

「昨日ぶりだね、アズマ」
そう言いながら背後から声を掛けられたので振り返ると、アズマと数人の不良達が居た
最悪…
「一般人が迷い込んでさぁ、外へ案内してる途中でよその不良に絡まれて思わずココまで連れてきちゃったんだ。ようやくその不良達を撒けたから今からまた外へ行こうとしてたところ。で、アズマは何してるの?昨日から珍しい場所で会うよね」
「ふーん…一般人ねぇ?」
楓と聡広を見て
「そう。だから、邪魔しないでくれる?」
無理だろうなと思いながらそう言ってみると案の定
「逃がすわけがないだろう?」
とニヤリと笑われた
そうだよね…どう考えても、無理だよね
不良を引き連れて現れたということは、つまり、最近の事件にも大きく関わっていたということだろう
「別に逃げようとは思ってないよ?でも、一般人を巻き込むのはルール違反でしょう?」
「ルールねぇ?その『ルール』ってやつは誰が作ったルールだろうな」
「さぁ?でも、守らないとこの街から排除されるよ」
ルール違反者は街から追放
コレがココでの常識だ
「どうやってそれを知って誰がそいつをココから遠ざけるんだろうな?」
「そんなの俺が知るわけないじゃん。俺はまだココに来て半年なんだから」
「そう言えばそうだったな」
クッとアズマは軽く笑って
「それじゃあ、行くか」
と、促してくる
しかし…
行くってどこに?
その疑問が顔に出ていたようで
「そいつら、外に連れて行くんだろ?『ルール』だし」
そう言ったアズマに正直ホッとした
アズマも「敵」だからルールなんて関係ないとか言って楓たちを巻き込んで暴力を振るわれたらどうしようかと少し不安だったのだ
「うん。行こう」
楓達を促して外へと向かう
先頭に俺とアズマ、そして俺達の後に楓と聡広、不良達と続いている
「なぁ、ミキ。頼みがあるんだけど」
歩きながらアズマが俺にそう言った
「聞けるものと聞けないもの、無償のものと有料のものがあるけど?」
あらかじめそう言ってどんなもの?と尋ね返す
「…分かった、取引しよう」
言葉を変えたアズマに、何かとんでもないことを言われるのではないかと少し警戒する
「この後一緒に来て欲しいところがあるんだ。そこには『楽園』の奴らたちもいる」
「『楽園』ねぇ…俺にその溜り場まで案内して欲しいの?目的は後ろの不良達の復讐?」
「いや、別の場所さ」
別の場所?
思いがけない言葉に表情を変える
「そこには、お前と親しいタキやケイも居るはずだ」
「えっ…嘘だろ?」
そう言えば最近タキの姿を見ていない
でも、ケイは何で?家の用事でこの街には来ていないはずだ
「嘘じゃねーよ。まぁ、それはどうでもよくて、ココからが本題。お前はただ一緒に居てくれるだけでいい。だから、一緒に来てくれないか?来てくれたらミキの身の安全は保障する」
「…『楽園』はどうなろうがどうでもいいってことか」
「それはそうだろ?あいつらのせいで、俺達は今巻き込まれてるようなもんだからな」
「俺は現在進行形でアズマに巻き込まれてるけどな」
勝手にすり替えるのはいけないと思うよ
「わかった。どうせ、逃げて余計に不利な条件になるよりはマシかもね。でも、取引条件がそれだけじゃ応じられないな。まず、身の安全は絶対条件だけど、俺に触れていいのはアズマだけ、あと、携帯の没収もなし。2日後には帰してくれることを付け加えてくれる?」
「あぁ、わかった」
「それで、アズマは俺に何をしてくれるのかな?取引ってことは、そこに行く代価があるわけだよね?」
「身を守られるだけじゃ納得しないわけか」
ため息をつかれたが、そもそも「取引」なんだからそれで納得できるわけがないじゃない
「別に、勝手に守ってくれるだけでしょう?俺はココから逃げて、隠れて過ごす自信はあるよ?」
「…確かにそうだな。じゃあ、お前は何を俺に望む?」
逆に問いかけられる。見合う代価か…
「じゃあ、終わった後にそれに見合うだけの条件を提示するよ」
取引成立。先に取引の代価を指定しても良かったけど、行った先でどうなるかなんて分かったものじゃないからズルイけど、後で言うことにした
背後で俺達の会話を聞き不快そうに顔を顰めている聡広の顔が見えたけど、見なかったことにした



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