[43]

マスターの店の奥の部屋で皆で寝ていると昼過ぎ頃強制的に起こされた。
俺の保護者役の1人である圭介に。
「おはよう、美希也。ところで、何で先生達と一緒に寝てるのかな?」
素敵な笑顔でそう尋ねられて最初は何のことか分からずほけぇっとしてしまったが、すぐ隣を見て
「あ、これには事情が!決して浮気じゃないのよ!信じてダーリン」
と言ってしまった。
寝ぼけていたとは言え、起きて一番にやる冗談にしては少しキツかったなと言った後で少し後悔している。
「信じられないなハニー、ちゃんと説明してくれるよね」
にこりと笑う圭介は、笑っているようで笑っていなかった


まだ眠っていたマスターと楓と聡広を部屋に置いて、お店のキッチンへ移動した
圭介にコーヒーをいれてやり、圭介と向かい合って店のボックス席に座った
「それで、事情説明して皆で一緒に寝たというわけか」
「まぁ、そう。マスターの部屋に押し掛けるのは申し訳ないから俺の部屋に二人を入れたんだけど…知らない間に俺が真ん中になってた」
今は先程の事情説明をしている
圭介が扉をあけると俺を真ん中にして川の字になって眠っていたらしく、これはどういう状況なのかと説明を求められたのだ
何故俺が真ん中になっていたのかは、俺にも分からない
「ふーん。まぁ、それはどうでもいいや。それより…昨日の件だけど多分明日、明後日くらいには落ち着くと思う。だから…」
「分かってる。落ち着くまで街をうろつくなって言いたいんだろ?今は街中混乱してるから色々危ないのは俺でもわかし、大人しくしてるよ」
「分かってるならいい。けど、本当に気をつけろよ?連れ攫われてどっかに監禁なんてことだってこの街だとありえるんだからな」
「…うん。それは他の皆にも伝えとかないとね」
そう言うと、圭介は若干怒った様子で
「他の奴もだけど、お前も該当するんだからな?分かってるのか?」
と念を押された
「分かってるよ。俺はこの店から出るつもりないから…多分大丈夫。出かけたとしても買い物に行くくらいだし」
「…その買い物に行くときも一人で行くなよ?俺か誰かに連絡してくれたら一緒に行くから」
「表通りのスーパーだよ?大丈夫だよ」
「その油断が怖いんだよ。今回は、無事だったけど、次も大丈夫か…って考えたら本当に怖いんだ。こんな風に何回も巻き込まれてたらいつかは死ぬような事件に巻き込まれることだってある。そう考えたら物凄く怖くなったんだよ。だから…大人しく俺達の言うこと聞いてろよ」
いつもと違う圭介の雰囲気に流されるように俺は「分かった」と頷いていた
確かに今回は大丈夫だったけれど、次回も何もなく終わるとは限らない
特に、この街の弱者だと思われている俺たちは狙われる危険も多いだろう
「圭介は、これからまだやることあるの?」
そう聞くと、少し疲れた顔で
「午前中に挨拶回りは終わったからこれで終わり」
と返された
この様子だと昨日はあの後も色々動いていたのだろう
「そっか。タキは?」
「あいつは…まぁ、打ち上げとか言って街の奴ら連れて騒いでたよ」
「そっか」
それはきっと今回の騒動で疲れ切った『楽園』や巻き込まれた被害者達に対するタキなりの励まし方だろう
「俺も何かしたいな」
「落ち着いたら、挨拶まわりに出かけようか」
「…そうだね」
明るい窓の外を見て目を細めた



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