「邦明ー!」
食堂のど真ん中で名前を呼ばれた瞬間、食堂が静まり返る。
そして、俺自身固まった。
今、何が起こったのか?って?
「邦明?どーしたんだよ?」
おーいと手を振る転校生。
いや、諸悪の根源。
こいつが、こいつが…
食堂のど真ん中で学内の有名人を侍らせた挙げ句、俺の名前を呼びやがったのだ。
我に返ったのか、食堂が一気に騒がしくなる。当然だろう。学内の有名人であのハーレムのような集団に加わっていないのは俺だけだったのに、その俺も転校生に名前を呼ばれているのだ
そりゃあ…この学校の有名人それぞれのファン…親衛隊の奴らにとっては、面白くないだろう。
「お前誰?勝手に名前呼ばないでくんねぇ?」
転校生のためであり、自分のためでもある言葉を吐く。
拒絶してるのだと、空気を読んでくれ
「あ、わりぃ!俺まだ名乗ってなかったよな!俺は浜川悟だ!よろしくな」
悟と言う名前の割には、全然悟ってくれないよな…
「はぁ?誰が仲良くなんてすっかよ。二度と話掛けんな」
俺がそう言った途端、転校生に向けて嘲笑と罵倒が飛ぶ
全く…お前のためだと言うのに、転校生は目に涙を浮かべ、有名人が懸命に慰めている
その有名人のほぼ全員が俺を睨みつけて。
付き合ってられない。
そう鼻で笑って奥の席に行く
有名人には食事くらいゆっくりとれるようにと、専用席が用意されている。
その場所に行くと各種委員会の委員長とそれぞれの親衛隊隊長が居た。
自分達生徒会・風紀委員の隣の席に設けられている彼らの席に、俺はちらりと視線を向けて自分達用の席についた。
「貴方は…あの転校生の傍じゃなくていいんですか?」
メニューを広げたところで隣のテーブルで食事をしている図書委員長に尋ねられた
どいつもこいつも、話題はあの転校生かよ
「俺はあんな失礼な奴に興味なんかねぇよ」
素っ気なく返事をして、席に備え付けられている役員専用のオーダー用マイクに「A定食」とを注文する。
一般生徒は券売機で注文しなければならないが、役付きの者が券売機に並ぶと少しでもお近付きになりたいと考える馬鹿な奴が殺到して大混乱になるため、食堂での混乱を回避するための対策として役付きだけは席で注文することが許されているのだ。
因みに、何故各種委員長と親衛隊隊長も優遇されているのかというと、各種委員長とは多忙期には食事をしながらの打ち合わせを行うことがあるからだ。
親衛隊も同様だが、一応隊長として隊を纏める者へのご褒美でもある。
「邦明!」
転校生の声がする。
勝手に呼び捨てにするなよ!と苛立ちながら声のした方をみると俺の背後に居た
…背後?何故後ろに居るんだ?と疑問を抱いた瞬間、そいつは俺に抱き着いて…
いや、俺を抱きしめた。
…何で?
何で、こんなことになってんだ ?
思わず向かい側の各種委員長を見ると彼らも呆然とこちらを見てる
「邦明、気付いてやれなくてごめんな?一人でご飯なんて寂しかったよな?でも、今日からは一人じゃないから!一緒に食おうぜ」
耳元でそう言う転校生に思わず鳥肌が立つ
何だよ!こいつ!
誰が一人で飯食うの寂しいとか言ったんだ?!第一、誰かと食いたかったら適当に知り合いと一緒に来るだろう!普通は
「何、勘違いしてんのかわからねぇけど、俺は別に寂しいわけじゃねぇから」
そう言って転校生を突き放す
「悟が折角誘ってるのにそんな言い方ないだろー!」
「本当に、礼儀がないですよね。貴方は」
生徒会書記と副会長に嫌味を言われるが、お前達にそんなことを言われる謂れこそないはずだ。
風紀委員ならともかく…
「二人とも、俺は気にしてないから…それに、俺も勝手に思い込んで悪かったし。でも、一人だとやっぱり寂しいんじゃないか?一緒に食わねぇ?」
書記と副会長に気にしてないと言いながらも俺を食事に誘う転校生
本当にしつこいよなぁ…
「「食事くらい一緒に食べてもいいんじゃなぁい?」」
書記と副会長の後ろからひょこっと現れたのは生徒会会計で有名な双子、西園寺文兄弟
彼らの名前は「文」と書いて「ふみ」と「あや」と読むらしい。
本当に紛らわしい。教員からは「ふ」と「あ」で分けられているらしい。って、これはどうでもいい情報だったな。
「それにぃー」
双子の兄「ふみ」の方が俺に近づきにっこり笑う
『面白いものが見られるよぉ?』
小声で俺の耳元に囁く
ふみを見るとにこりと微笑み返された
この双子が言う面白いものとは碌なことがない。
そして、この状況を至極楽しんでいる様子の彼らは転校生に対して、確かに「気に入っている」のだろうが、どこか他の者とは違う気がした。
…放っておいても厄介だな
「…分かった。一緒に食べよう」
仕方なく席を立つ。隣の各種委員長達からは何とも言えない視線を向けられたが、俺が席を立つことで満足するならこれ以上騒ぎを大きくすることはないだろう。
…しかし、俺は判断を誤ったかもしれない。
俺が席を移動したことで、食堂中が大騒ぎになってしまった。
『風紀委員の一匹狼』
誰とも相容れないと評判だっただけに俺が転校生と一緒の席に座っただけで俺は彼を「気に入った」と思われたらしい。
実際はそんなことはないし、できることなら専用席で静かに食事をしたいのだが…
「ふふっ、これで登場人物は全員揃ったね。文」
「そうだね、ようやく…」
隣で双子が物騒なことを言っていたが聞かなかったことにしよう。
この確信犯達めっ!