[ 君が望む幸せ 3]

食堂の騒動があってから数日
俺は転校生に付きまとわれていた。
生徒指導室(風紀委員室)へ行っても、屋上へ行っても、裏庭に行っても現れる転校生。
神出鬼没すぎて恐ろしい。
唯一の逃げ場としては『教室』のみだった。授業中という限定が入るが…
『キーン…』
「邦明ー!!」
チャイムの最初の音と同時に教室の後ろの扉が開かれる
お前、自分の授業はどうした?!
「邦明ー!もう昼だろ?食堂に行こうぜ!」
転校生の後ろに勢揃いしている学園の有名人達
双子を除いてほぼ全員が俺を威圧してくる
いい加減にしてほしい。俺が嫌がっていると何故気付いてくれないのだろうか?いや、気付いていてやってるのか?
そこの双子は気付いているのだろうが、助けてくれそうにない。
諦めて転校生の後についていく
俺は双子達と一番後ろを歩いているが、先頭を切って歩く転校生は上機嫌だった。
「「本当、滑稽だよねぇー」」
ニヤニヤと同じ顔で笑い合う双子にため息が零れる
俺はまだ数日しか関わっていないが、転校生がやってきてもう1ヶ月近くになる。
最初からずっと一緒に居る生徒会会長や副会長は毎日同じことの繰り返しで飽きないのだろうか?
因みに俺は、もう2日目で飽きた
逃げようとすれば追いかけられるし、本当にどうにかして欲しい。
「本当、俺は幸せ者だよ。皆が居てくれるし」
にこにこと食事を待つ間に転校生が話し出す
これも、毎日のこと。1日2・3回は聞いているかもしれない
この転校生の「幸せ者」という言葉に有名人達は頬を緩ませて「俺もだ」と返している
これの何処が「幸せ」なのか俺には理解ができない。


この茶番劇を双子は「滑稽」だと笑う
数日も一緒に居れば、双子の云う「滑稽」が何かくらいは分かってきた
しかし、俺には全く笑えない。
何が面白いのかすら分からない


「「まぁまぁ、あと少しだから付き合ってよ」」
俺がイラついていることを分かっているくせに、双子がそう言って俺が行動を起こすことを止める
もう限界だというのに。
このわけの分からない場所に居るくらいなら風紀委員の仕事をしたい
「ねぇ、知ってる?あの子、親衛隊に制裁されてて、教室に机が無いんだよ」
「ねぇ、知ってる?あの子、寮の部屋にも入れて貰えてないらしいよ」
クスクスと笑いながら他の役員に聞こえないくらい小声で俺だけに聞こえるように囁く


何故、そんなことを俺に言うんだ?
それに、制裁?更に寮の部屋に帰れない…あれ?じゃあ、転校生はどこに帰っているんだ?


疑問を抱いて双子を見るとそれ以上は教えてくれるつもりはないのかクスクスと笑い合っている
『あと少し』双子の言った言葉はどういう意味なのだろう?
疑問だけが募っていく


この日の真夜中、転校生が夜は何処居るのか気になった俺は一人、ふらりと外へ出た
言われて見れば、転校生は深夜遅くまで俺の部屋に訪ねて来たりするのは日常茶飯事になっていた
しかし、俺は決まって11時には彼らを追い出す。
理由は俺の同室者である高橋優太が帰って来れないからだ。
優太にまで迷惑は掛けたくない一心で、転校生が来る時は部屋から避難して貰っている
今日も優太が無事に帰ってきたことを確認してから部屋を出てきた。
散歩がてら…と寮の周りを歩きながらゴミなどを見つけ、風紀の一環でもあるため仕方なく拾う度に、一人何だか虚しくなる
「普通、部屋に帰らないからって、外にはいねぇよなぁ…よくよく考えれば、誰かの部屋に泊めて貰うよな…」
あー…何で、外に出てしまったのだろうと後悔していると裏庭の奥から泣き声が聞こえて来た
え?ちょっと、こんな真夜中に泣き声とかホラーなんだけど!
不気味に思いながら、こんな真夜中に人間なら放っておくこともできずに声のする方へと近づく


『―――なんでっ』
グスグスと鼻を啜る音の合間に聞こえた問いかけの声
転校生の声だった。
『何でぇー!!』
泣き叫ぶ転校生
深入りすることを躊躇い、迷った末に俺は引き返した


これは一体、どういうことなのだろう。




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