翌日も転校生は夜中に泣いていたとは思えないくらい、元気な笑顔を振りまいて寄ってくる
俺は、昨日のあの様子が頭を掠めて、いつものようにキツク突き放せなかった。
何でと何度も何もない場所に問いかけていた転校生
後悔しているのかと思いきや、この反応。
そして、何も変わらない生徒会と風紀委員の反応
何かがおかしい。そう思っていても、何故かが分からなかった。
「「そろそろ飽きたし、答え合わせ、しようか?」」
放課後、今日は生徒会室に連れてこられて仕方なく皆でまったりとお茶をしていた時、双子が俺にそう言った
答え合わせ?
「なぁ、ふみとあや!何話してるんだ?」
転校生が割り込んでくる
「なぁ、邦明ー!何話してたんだよ?」
しきりに聞いてくる転校生にため息をついて
「さぁな。俺もよく分からねぇよ。双子に聞け」
「双子じゃなくて、ふみとあやだろー?全く!一緒にすんなよな!」
『双子』と西園寺兄弟を一括りにして言ったことで転校生が自分のことのように憤慨している
何故、ココまで他人のことに怒るのか。俺には分からなかった
「「いいんだよー。僕達は双子だもん」」
「ねぇ、ふみ?」
「ねぇ、あや?」
にこりと笑い合う二人に俺はなんとなく、こいつらは二人で一緒ということに納得しない転校生に不満を抱いているのだと思った。
今まで、二人だと区別してくれることを喜んでいるのだと思ったのに…
「良くないだろ!お前らは一人一人違うのに!」
ムスーッとむくれる転校生。
ココまで空気を読まない転校生に、コレは故意的にそうしているのだろうか?と頭が痛くなる。
…故意的?
昨日の夜、見た転校生はどうだった?
本当に、こんな状況を、望んでいるのだろうか?
「大変だ!」
バンッと大きな音を立てて扉が開いた
今まで部屋に居なかった風紀委員書記が慌てて部屋に入ってくる。
その後を生徒会長、風紀委員長が風紀委員書記とは打って変わって、落ち着いた様子でそれぞれ部屋へと入ってきた。
「何かあったんですか?」
生徒会書記が静かに尋ねた
「悟が…悟がぁ!!」
頭を抱えて項垂れている風紀委員書記に生徒会書記が駆け寄る
落ち着かそうとしきりに背中を擦っている
生徒会長、風紀委員長の二人が転校生の前に立った
誰もが何も言えずに、その後の展開を見守っている
「浜川悟、お前はココ数日教室に顔を出していないな?」
いつもの転校生に対してはデレッデレの生徒会長からこんな台詞が吐き出されたとは思えないくらい冷たい声だった
「えっ…だって、お前らが傍に居ろって…」
言い訳をした転校生に風紀委員長がじろりと生徒会長を睨む
言った覚えがあるのか生徒会長は視線を逸らした
おい、今のは何がしたかったんだ?!
「まぁ、いい。それより、ここ数日、チャイムと同時に2年A組に乗り込んでいるよな?」
因みに、2年A組は俺の教室だ。
休める場所を求めて教室に逃げ込んでいるせいで俺の出席率は他の役員より高い。
今までも授業は真面目に受けようと思っていたから転校生が来たから授業に出るようになったというわけではないけれど
「あ…あぁ…邦明が居るし」
「それと、最近お前は寮の部屋に帰っていないだろう?」
「………」
どうやら、風紀委員長…どころか、この部屋の話はこの場にいる全員が知っていた様子で誰も驚いていない
「先ほど、理事会が開かれ、浜川悟。お前についての処分が決まった」
「処分…?」
目を見開く転校生
何が起こっているのか、さっぱり理解できない。そんな感じだ
俺も何が起きているのか理解できていない。
「お前が転校してきて1ヶ月、お前が授業に出席したのは最初の3日のみ」
…は?そんだけしか教室行ってなかったのか?
「それは…教室に自分の席がなくなったからキレて…」
…3日で親衛隊を動かしたというのも凄いことだよなぁ
「席が無かったら、それは教員に申告して対応すべきだった。または、俺達に言って対応してもらうべきだった。何の為に俺達がお前についていたと思うんだ?」
え?そんな意味があったのか?
知らなかった…ただ、本当に好きだから構っていたわけじゃなかったのか…
「…邦明。お前、ちょっと黙ってろ」
「へ?」
風紀委員長に言われて、俺が心の中で突っ込んでいたと思っていた言葉が全て口から出ていたのだと気付いた
は、恥ずかしー
どんだけ天然キャラなんだよ。俺!
「すみませんでした」
「…お前に謝られると何か変な感じだな」
悪いと思ったから謝ったのに、その言い方は何だよ!委員長!!
今度は、ちゃんと胸の中だけで叫んだ。
これ以上話を折ったら本気で怒られそうだしな
「それから、体育倉庫を管理している用務員と部活動関係者から苦情が相次いでいたんだ。部屋から出されたお前の荷物、体育倉庫に突っ込んでただろ?」
「…」
生徒会長の言葉に俯き、静かに頷く転校生
「その荷物だが、昨日、用務員のヤツが預かっていると連絡があった」
風紀委員長の言葉に転校生が勢いよく顔を上げた
もしかして、昨日の夜裏庭で泣いていたのは荷物がなくなったせいだろうか?
「そして、最後に。浜川悟。お前のIDは今どこにある?」
「ID…学生証?」
「そうだ」
「…寮の部屋の中に置きっぱなし」
「この学校では学生証の携帯を義務付けられている。完全に校則違反だ」
「授業に出席しない、学生証は携帯しない。寮の部屋から追い出されても何もアクションを起こさない。そして、無意識だったとしても生徒を煽るだけ煽る行為。そして、俺達役員に付きまとい離れなかったこと。これらが処分の対象になった」
「そんな…」
転校生が力なくへたり込む
この生徒会長・風紀委員長の言葉に誰も反論をしなかった。
何故、文句を言わないのだろう?
「なぁ…学内の生徒を煽るだけ煽ったというのと、俺達から離れなかったというのには俺達にも非があったんじゃないか?少なくとも、お前達がそこの転校生を拒絶しているようには見えなかった。それに、俺も最後まで拒絶しきれなかった部分がある。それを言うなら、俺達には処分はないのか?」
そう聞くと
「本当、邦明は優しいな」
と風紀委員長に微笑まれた
いや、そんな微笑望んでないから。
「「高沢が気にすることじゃないんだよー?ぜぇーんぶ悟が悪いんだからぁ」」
ねぇー?と言い合う双子に
「一応私達も仕事が溜まり始めてヤバイと気付いてからは拒絶し始めていたんですよ」
と言う副委員長。
それぞれが肯定の頷きなどを返している
「高沢の存在が悟に気付かれるまでは、一般生徒である悟に見られたらマズイ奴は高沢に処理して貰ってたんだけどねぇ?」
「最近、それもできなかったしー。それぞれが持ち帰って仕事しようにも時間に限りはあるしさ」
…だからか。俺の仕事量が多くなってたり、生徒会の仕事じゃないのか?と思うような書類が紛れていたりしたのは!
「「でも、もうおしまい。残念だったねぇー?」」
ニヤニヤと楽しそうに笑う双子
絶望している転校生に笑う双子のクスクス言う笑い声が部屋に響いた