[05] 仲直り (side 那智)

「あれ?」

今までエレベータの中に居たはずなのに見覚えの無い部屋に居た

何時の間に俺は眠ってしまったのだろう?

思い返しても思い出せない

しかし、それ以上にこの場所に心当たりはなかった

体を起こすとそれに気付いたのか千紘がこちらに向かってくる

「千紘・・・?」

あ、そうか。俺、千紘と一緒にエレベータで閉じ込められたんだっけ?

「なぁ、ココってどこ?」

「俺の家。お前、寝すぎ」

なるほど、どうりで俺の部屋と構造が似ていると・・・って千紘の家?

「何でお前の家に俺がいるの?」

「寝ぼけてるだろ」

起きろと頭を叩かれる

「痛いなぁ・・・別に寝ぼけてるわけじゃないって」

「お前の家に行ったら誰も居なかったんだよ」

「あ、そっか。姉貴今日から出張だっけ」

昼間は自分の姉が家にいるのが普通になっていたので忘れていた

「ごめんな、迷惑かけて」

そう言って立ち上がり自分の鞄を探す

「夕飯食ってけよ」

「いや、そこまで迷惑掛けらんないし、親も帰って食事の準備してるだろうから」

「安心しろ、ちゃんと連絡は入れてあるから」

「へ?」

「呼び鈴の所にメモ挟んでおいてきた」

「・・・ありがとう」

そういう心遣いは本当に感謝しなければいけないのだろうが、俺としては一刻も早くこの場から逃げたかった

「千紘〜って、那智くんも起きたのね。夕食できたわよ、いらっしゃい」

「あ、あの」

「遠慮なんてしないでね。折角久々に那智くんが来たんだものおばさん頑張っちゃった」

にこりと微笑んでそう言う千紘の母に敵わないと思いながら

「すみません、お言葉に甘えさせて頂きますね」

と微笑で返した。

「やっぱり那智くんがうちの息子だったら良かったのにね〜」

と言うため息まじりに呟かれた言葉は聞かなかった事にする

千紘の母の料理は凄く美味しかった

「そうそう、那智くんこの前このお豆さんを煮たやつが美味しいって言ってたでしょう?スーパー行ったら安く手に入ったから良かったら持って帰ってね」

と、大豆を煮た物をタッパに入れてくれる

「ありがとうございます、きっと姉が喜びます。健康と美容に良いとか言って最近毎日豆料理が続いているんですよ」

「あらあら、それじゃあちょっと迷惑だったかしら?」

「そんなことないですよ。俺、豆好きだし今毎日食べてるけど何か飽きないんですよね」

「そう?それなら良かったけど」

他の料理も沢山食べて行ってねと食事を促される

「もう頂いてます」

と、ちょっとお茶碗を持ち上げて笑う

千紘とは全く話さなかったが千紘の母とはよく下のホールで会うので世間話などを聞かされたり、自分も彼女は嫌いではなかったのでよく話したりしていた



「そういえば良かったわよね、そんなに大きな事件じゃなくって」

そう切り出した千紘の母が最初何を指しているのか全く検討が付かなかった

「あぁ、そう言えばエレベータが止まったのは隣のエレベータで子供が遊んで跳ねてたのが原因だったらしい」

千紘がそう説明してくれたのでそれがエレベータの話題だった事に今気が付いた

「そうだったんだ。けど、千紘がいなかったら俺絶対パニック起こしてたな」

「既に半分パニクってただろ」

「悪いかよ。あんな状況で冷静で居られるのは千紘くらいなんじゃねぇの?」

イヤミを込めて言ってやる

「その状況で眠る度胸は俺には無いな」

「うっ・・・」

それを言われると言葉が無い。

確かに俺自身あんな状況で眠ってしまうとは思わなかったけど千紘もいるし何か安心しちゃったんだから仕方ないじゃん。

それに、部活上がりで疲れてもいたし、あの時間はいつも俺にとってはお昼寝タイムなんだよ!何か悪いかよ!!

と、言葉には出さずに心の中で怒る

「けど、まぁ・・・俺も那智が居なかったらパニック起こしてたかもな」

「嘘付け。アレだけ冷静に対応してたくせに」

それは絶対にありえない!と断言するとそんなことないと苦笑を見せる

「何か二人共今まで顔を合わせたら盛大に喧嘩ばかりしてたのにいつの間に仲良くなったの?」

と不思議そうな顔をして尋ねてくる千紘の母にその問いは自分も知りたいと思いながら苦笑で返した



夕食が終わり再び千紘の部屋へと戻る

小一時間ほど雑談をした後

「んじゃ、俺そろそろ帰るわ。今日はありがとな」

と、時計を見て自分の鞄を持って玄関へと向かう

この頃にはあんなに逃げたいと思っていたのにまだ話し足りなく、帰りたくないという思いの方が強かった。

最初こそぎこちない会話だったが話すうちにそのぎこちなさも全くなくなっていたのだ

「おばさーん!夕食ご馳走様でした!美味しかったよ」

台所にいる千紘の母に声を掛けて外へと出る

「那智、またな」

「うん。またね」

その後も千紘と話すようになったのはコレがキッカケだったと思う。




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